(読み)てん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説


てん

天空または天空に関する宗教的世界観を表わす語。民族,歴史の相違により多義であるが,一般的には神の住む理想郷と信じられている。特に中国では天を中心として諸思想が展開した。殷代には,「天」は「大きい」という意味であり,天空を支配する最高神を「帝」と呼んでいたが,周代には,「天」と「帝」が同義語となり,地上の支配者である王は上帝の命により天下を統治するものと考えられるようになった。そこで,地上の「王」も「帝」と呼ばれるようになる。儒教では,人間の性質は天から授かっていて,したがって生来善なるものであると考えるので,儒教の普及とともに天は国家的理念から道徳的実践目的に改質し,また道家においては無為自然の道を天道と称した。また陰陽五行説,易などが天の象徴的解釈として発達した。日本では高天原がアマテラスオオミカミの統治する天界と考えられていた。仏教で用いられる天は,サンスクリット語デーバ (神) の訳語である。

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デジタル大辞泉の解説

あま【天】

《「あめ(天)」の古形》てん。そら。あめ。
「あをによし奈良の都にたなびける―の白雲見れど飽かぬかも」〈・三六〇二〉
[補説]複合語を作ったり、「あまつ」「あまの」の形で体言にかかったりする場合に多く用いられる。→天(あま)つ天(あま)の

あめ【天】

地(つち)に対して、空。
「み園生(そのふ)の百木の梅の散る花し―に飛び上がり雪と降りけむ」〈・三九〇六〉
天にあって神や天人の住む所。天上界。
「かばかり守る所に―の人にも負けむや」〈竹取

てん【天】

地上を覆って高く広がる無限の空間。大空。あめ。「を引き裂く稲妻」
天地・万物の支配者。造物主。天帝。また、天地・万物を支配する理法。「運をにまかせる」「の助け」「の恵み」
仏語。
㋐六道(ろくどう)のうち、人間界より上の世界。天上界。
㋑天上界にいる神や、その眷族(けんぞく)。
キリスト教で、神のいる所。天国。「にましますわれらの父よ」
本・掛け軸・荷物などの上の部分。「地無用」⇔
物事を「天・地・人」の三段階に分けたときの、第一位。
物事の最初。はじめ。→天から
天麩羅(テンプラ)」の略。「えび」「つゆ」

てん【天】[漢字項目]

[音]テン(呉)(漢) [訓]あめ あま
学習漢字]1年
大空。「天下天空天上天地九天仰天暁天衝天水天中天沖天北天満天露天
空模様。「雨天好天晴天
自然界。自然。「天険天災天然・天歩」
自然に備わったこと。生まれつき。「天才天寿天分後天先天
高い所。「天井天幕脳天
信仰の対象としての天。運命。造物主。神。「天運天罰天命天佑(てんゆう)皇天
神や精霊の住むと考えられる所。「天国昇天
天子・天皇のこと。「天位天顔天孫天覧
[名のり]かみ・そら・たか・たかし
[難読]天晴(あっぱ)れ天地(あめつち)天牛(かみきりむし)天皇(すめらみこと)天柱(ちりけ)天蚕糸(てぐす)天辺(てっぺん)天麩羅(テンプラ)天鵞絨(ビロード)

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百科事典マイペディアの解説

天【てん】

天(あめ),空(そら),天空。漢字〈天〉は,人間の正面形を表す大に頭部を示す円を加えた形という(白川静《字統》1984年)。天ないし天空を神的存在として崇拝する伝統は古来,洋の東西を問わずあり,地母神と対比されて天父神が表象されることが多い。天=至上神の観念をもっとも発展させたのは漢民族で,〈天帝〉〈天子〉〈天命〉〈天道〉〈天人相関〉〈天理〉など多くの語が用いられて,人事万般との関わりが説かれている。
→関連項目天国天命

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世界大百科事典 第2版の解説

てん【天】

天や天空を崇拝の対象とする民族は少なくないが,そのような信仰形式をもっとも古くから発達させたのは内陸アジア遊牧民族であった。おそらくその日常生活が天体の観察と切っても切れない関係にあったからと思われる。こうして古代アジアの諸族において天そのものを神とみる観念が生じたが,やがてそこから天をもって世界に秩序を与える力の根源とする見方があらわれた。すなわち古代中国の〈天命〉や古代インドの〈リタ(天則)〉の観念がそれである。

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大辞林 第三版の解説

あま【天】

あめ(天)」に同じ。多く助詞「つ」あるいは「の」を介して他の語を修飾し、また直接複合語をつくるときの形。 「 -の白雲見れど飽かぬかも/万葉集 3602

あめ【天】

空。天。あま。 ⇔ つち 「み園生の百木の梅の散る花し-に飛び上がり雪と降りけむ/万葉集 3906
天上界。 「 -にます月読つくよみをとこ/万葉集 985

てん【天】

地に対して、頭のはるか上をおおって無限に広がる空間。大空。あめ。 「 -を仰ぐ」
にいて、万物を支配するもの。造化の神。天帝。 「 -の助け」
の定めた運命。天命。 「唯是-にして、汝が性さがのつたなきを泣け/野ざらし紀行」
〘仏〙
衆生が生死流転する六道のうち、最上部にある最も苦悩の少ない世界。欲界の六欲天、色界の四禅天、無色界の四無色天など。
天の住人。天人。
キリスト教で、天国のこと。 「 -にまします我らの父よ」
荷物・掛軸など、上下の定まっているものの上の方。 ⇔ 「 -地無用」
本の部分の名。製本で、本の三方の断ち口のうち上にあたる部分。 → 製本
(天地または天地人と)二段階または三段階に分けた時の、最上のもの。 「敵役の-ぢや/浄瑠璃・男作五雁金」
事の初め。最初。 → 天から
[句項目] 天から降ったか地から湧いたか 天勾践を空しうすること莫れ、時に范蠡無きにしも非ず 天之に年を仮す 天定まって亦能く人に勝つ 天知る、地知る、我知る、人知る 天高く馬肥ゆ 天高し 天にあらば比翼の鳥、地にあらば連理の枝 天に口無し人を以て言わしむ 天に順う者は存し天に逆う者は亡ぶ 天に跼り地に蹐す 天に唾する 天に二日無し、土に二王無し 天に召される 天にも昇る心地 天の与うるを取らざれば反って其の咎めを受く 天の濃漿 天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず 天の作せる孽は猶違くべし、自ら作せる孽は逭るべからず 天の配剤 天の美禄 天は高きにいて卑きに聴く 天は二物を与えず 天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず 天は自ら助くるものを助く 天は見通し 天を仰いで唾する 天を怨みず人を尤めず 天を衝く 天を摩する

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説


てん

中国思想を貫く重要な概念。天という文字はもと人間の頭部を示し、それが天空を意味するようになった。西周時代には、天は、天上の最高神として崇敬され、上帝ともよばれて、地上の現象を支配すると考えられた。この信仰は、殷(いん)代の帝(てい)の信仰を原型とするとも、北方遊牧民族に起源をもつともいわれる。とくに、天が王朝に命(めい)を与えるとされ、周王が天意の代行者とされたことは、周の封建制を宗教的に支える役割を果たした。君主を天子といい、天の祭りを天子の特権とするのはこのことによる。春秋時代ごろには、最高神としての天の信仰は動揺し始める。春秋・戦国時代の思想家たちの天に対する見方には、孔子(こうし)・孟子(もうし)のようにこれを宇宙の理法に近いものと解し、道徳の根源をそこに求める立場、荘子(そうし)のように万物のなかに働く不可知な力とみる立場、墨家の一部の、意志をもつ人格神とする立場、荀子(じゅんし)の、純粋な自然現象と考える立場などがある。前漢に至り、中央集権国家の確立のもとで、儒教が正統思想の地位を占めるが、当時の儒教では、董仲舒(とうちゅうじょ)らにより、天子を中軸とした天人相関を設定して君主に超人間的権威を付与することが試みられた。漢以来、王充(おうじゅう)、柳宗元(りゅうそうげん)、劉禹錫(りゅううしゃく)、王安石(おうあんせき)ら、天を単なる自然とみる思想家もあり、また朱熹(しゅき)(朱子)は天とは理だとするなど、天は多義的に解釈されたが、天を普遍的・超越的存在とし、天命を受けた君主を天子とよび、それが天下を統治するという考え方は、旧中国の歴史を基本的に貫通しており、これが中国人の精神生活を強く規定した。[内山俊彦]

日本

中国から日本に伝えられた「天」(天上世界、宇宙の最高神、守護神などを意味する)の観念には、〔1〕道教系、〔2〕儒教系、〔3〕仏教系のものがあり、これらがそれ以前からあった〔4〕日神(ひのかみ)信仰(ここからのちに皇祖神天照大神(あまてらすおおみかみ)の観念が発生する)と合体して日本古代の天の思想を形成したようである。すなわち古代においては神孫君主、有徳者君主、前世十善の君主という元来異質の君主観が、三者に通底する天の思想によって結び付けられ、古代天皇制を正当化していたのであり、〔1〕〔2〕に由来する革命説は偉大なる天皇(現人神(あらひとがみ))の出現をたたえたり、皇統内における系統の交替を説明する場合に限定して適用され、〔3〕〔4〕に由来する万世一系思想との矛盾が避けられている。中世になって武家が政治的実権を掌握するとともに、本来同じく〔2〕に依拠する、仁政を要求する天下思想と、君王への服従を主張する王土思想が対立することになったが、武家政権は天下思想によって為政者としての地位を合理化した。ただし同時に武家政権は天皇を名目上の君主としていただいた。こうした天下思想=天の思想は鎌倉幕府・室町幕府から江戸幕府へと受け継がれていったが、江戸幕府は神祖家康(いえやす)と「天」を接合し、徳川将軍家の権威を超越的に保証しようとした。なお中世から近世にかけて、中国伝来の三教(儒・仏・道)一致論が流布したが、当時さらにこれに神道(しんとう)、キリシタンが加えられ、これら諸思想の一致点が「天」(天道(てんとう))に求められた。近世になると儒教各派およびその他の学問分野でさまざまな「天」の解釈が行われたが、時代思潮の主流を形成したのは上述のような「雑種」的な天の思想であった。日本思想の特色としてしばしば重層性が指摘されるが、その重層的構造を内面から支えていたのがほかならぬ天の思想であったといえよう。[石毛 忠]
『郭沫若著『天の思想』(『岩波講座 東洋思潮8』所収・1935・岩波書店) ▽石田英一郎著『天馬の道』(『桃太郎の母』所収・1966・講談社) ▽重沢俊郎著『中国哲学史研究』(1964・法律文化社) ▽池田末利著『中国古代宗教史研究』(1981・東海大学出版会) ▽ジョセフ・ニーダム著、東畑精一・藪内清監修、吉川忠夫他訳『中国の科学と文明 第2、第3巻』(1974、75・思索社)』

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世界大百科事典内のの言及

【宇宙】より

…もともとは〈宇〉も〈宙〉も,ともに,(大きな)覆い,つまり家の屋根のことであった。したがって宇宙とは,みずからのすまう世界のすべて,天の下いっさいを包摂する概念といえる。それゆえ,神話的伝承も含めて,すべての自然哲学の体系は,必然的に一種の宇宙論であると考えることができる。…

【儒教】より

…通常,儒教の学術面を〈儒学〉と称し,教学的性格をその開祖の名をとって孔子教Confucianismともよばれる。 儒教の基本的教義は,五倫五常,修己治人,天人合一,世俗的合理主義である。(1)五倫五常 三綱五倫(君臣・父子・夫婦と兄弟・朋友)の身分血縁的関係をあるべき人倫秩序とし,家族組織から政治体制まで貫く具体規定を備える。…

【中国思想】より

…これに対して中国思想に政治色が濃いのは,その担当者が士大夫とよばれる政治家・官吏であったという事実によることが多い。
[古代]
 中国思想の根底にはつねに天の観念があるが,そのの崇拝の起源については,従来は農耕生活との関連から説明されるのが普通であった。しかし近来は文化人類学の研究成果から,天の崇拝は本来東アジアから中近東にかけての遊牧民族の信仰から生まれたとする説が有力になった。…

【天下】より

…古代中国に由来し,文字どおりには全世界を意味し,〈天子〉の統治対象を指す語。〈天子,民の父母作(た)り,以て天下の主と為る〉(《書経》),すなわち〈天〉から〈命〉を受けた〈天〉の〈子〉が,〈天〉の〈下〉全体の最高支配者となると考えるのである。…

【天子】より

…中国において天帝の息子として,天帝に代わって全世界を統治する者をいう。周王朝の初年,周公(旦)らが発展させたという天命の思想によれば,天帝は天の命令を下して一つの王朝(それは血縁関係で継承される)に天下の統治をまかせるのであるが,その王朝が徳を失うと天帝はそれを見捨て,別に徳ある者を見つけ,その者を天の元子(あととり息子)と認知して,代わって天命を与える(天人相関説)。…

【天部】より

…仏像の分類において如来,菩薩,明王に次いで最下位に置かれる尊像の総称で,諸天部,天ともいう。これらはインド古代神話では天界に住む神々であり,仏教にとり入れられて護法神となった。…

【東学】より

…東学とは西学(キリスト教)に対決する東方すなわち朝鮮の学を意味し,欧米人の侵入に備えて剣舞を奨励するなど民族的な自覚の高まりを背景としていた。また,基本宗旨である〈人乃天〉(人すなわち天)の思想は,人間の平等と主体性を求める反封建的な民衆意識を反映するものであった。天とは宇宙万物の本源であるが,人はそれぞれ内に有する神霊なる心の修養につとめることによって天心に感応し,天と融合・一体化することができる。…

【八部衆】より

…大乗経典に仏の説法の聴衆として登場する。天竜八部衆ともいう。(1)天(デーバdeva) 神のことで(devaはラテン語deusと同系),帝釈天をはじめとする三十三天など。…

【仏像】より

…また不動その他の明王は忿怒(ふんぬ)の形相をした密教特有の尊像で,発生的にはヒンドゥー教のシバ神と密接に関連する。また,古くから仏教にとり入れられたインドの神々など仏法を守護する異教の神々を天と総称し,梵天,帝釈(たいしやく)天,吉祥(きつしよう)天,弁才天,竜王,夜叉,訶梨帝母(かりていも)(鬼子母(きしも)神),摩利支(まりし)天,大黒天,聖天など,また四天王,八部衆,十二天などの一群の神々がある。このように仏教尊像を日本では仏(如来),菩薩,明王(みようおう)(忿怒),天部と分類し,さらに星宿,鬼神の類,神仏習合による垂迹(すいじやく)神,羅漢や高僧をも加える。…

※「天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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