改訂新版 世界大百科事典 「アスモデ」の意味・わかりやすい解説
アスモデ
Asmodée[フランス]
旧約聖書外典《トビト書》に姿を現す悪魔。アスモデウスAsmodeusともいう。ユダヤ教の伝承では悪魔の王とされる。トバルカイン(《創世記》4:22)と妹ノエマの近親相姦の子とする伝承もある。前2世紀ころペルシアとの接触によりもたらされた怒りの神〈アエシェマ・ダエーバ〉から出たと考えられる。《トビト書》ではラゲルの娘サラに取り付き新婚の夜ごとに,彼女の7人の夫を殺すこと7度に及んだ。トビトの子トビアは天使ラファエロの助けでサラからアスモデを退散させる。トビアの旅の道連れとなった天使は,魚を釣って肝を取り,サラの寝室で焼いてアスモデを追い出したのである。ある伝承ではアスモデはソロモン王を廃そうと企て,天使ガブリエルに追われエジプトのタアタの町はずれの洞窟に閉じ込められたという。《タルムード》では淫欲の悪魔として描かれている。近代ではスペインのゲバラ(1579-1644)の作を18世紀フランスの作家ルサージュが翻案した《びっこの悪魔》(1707)中の人物として有名になった。作品の冒頭ではマドリードの家々の屋根をはがして家庭の内幕を主人公に見せたとされる。モーリヤックにも戯曲《アスモデ》(1937)がある。
執筆者:松原 秀一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報