日本大百科全書(ニッポニカ) 「タルムード」の意味・わかりやすい解説
タルムード
たるむーど
Talmud ヘブライ語
ユダヤ教の口伝律法「ミシュナ」と、これに対する注釈「ゲマラ」を集大成したもので、ユダヤ人にとり「モーセ五書」(トーラー)に次ぐ権威をもつものとされる。タルムードは生活上あらゆる問題を網羅して論じているので、祖国を離れたユダヤ人はつねにこれを生活のよりどころとしてきた。
ミシュナは紀元200年ごろラビ・ユダによって初期律法学者の教説を選別、体系化して編集された。これは種子篇(へん)(農業法)、聖会篇、婦女篇(婚姻法)、損害篇(民法、刑法)、聖物篇(祭儀法)、聖潔篇の六部からなる。その後ミシュナはパレスチナとバビロニアの両地で律法研究の基本資料となり、やがて膨大な注釈(ゲマラ)を生んだ。これは別々に編纂(へんさん)され、パレスチナ・タルムード(400ころ)とバビロニア・タルムード(500ころ)となった。両者はともに同じミシュナを基本資料としているが、パレスチナとバビロニアの社会的、経済的、そして文化的差異がゲマラに反映している。とくにバビロニアのユダヤ人コミュニティは経済的に恵まれ、他のコミュニティに比べて文化的にひときわ卓越していたため、彼らの生み出したバビロニア・タルムードは、生活、信仰の基礎としてユダヤ人全体に大きな権威と影響力をもつことになった。なお、ミシュナにはヘブライ語、ゲマラにはアラム語が用いられている。
[石川耕一郎]