日本大百科全書(ニッポニカ) 「アージービカ派」の意味・わかりやすい解説
アージービカ派
あーじーびかは
古代インドに現れた哲学学派の一つ。アージービカĀjīvika(またはアージーバカĀjīvaka)は「ふさわしい生活法を遵奉する者」の意であるが、他の宗教からは貶称(へんしょう)として、「生活の糧(かて)を得るためだけに修行する者」の意に用いられる。漢訳仏典では邪命外道(じゃみょうげどう)とよばれる。釈迦(しゃか)と同時代の思想家ゴーサーラはこの派の主導者である。マウリヤ朝(前3世紀)ごろまでは仏教、ジャイナ教と並んで勢力があったが、その後衰微し、ジャイナ教に吸収された。典籍はすべて散逸し、断片的な引用が残るにすぎない。その教理は宿命論的自然論に基づく。すなわち、世界は霊魂、地、水、火、風、虚空(こくう)、得、失、苦、楽、生、死の12要素より構成され、あらゆる生存は運命に支配されているのであり、個人の業(ごう)による因果応報は否定される。輪廻(りんね)の期間は不変であり、その間に受ける苦楽もまた一定である、という説である。
[松田愼也]