デジタル大辞泉 「輪廻」の意味・読み・例文・類語
りん‐ね〔‐ヱ〕【輪×廻】
1 《〈梵〉saṃsāraの訳。流れる意》仏語。生ある者が迷妄に満ちた生死を絶え間なく繰り返すこと。三界・六道に生まれ変わり、死に変わりすること。インドにおいて
2 連歌・連句で、
3 地学現象が一定の順序で生起し、循環的に繰り返すこと。浸食輪廻など。
4 執着の気持ちの強いこと。愛着。
「親の慈悲心、子故の闇、―の
[補説]書名別項。→輪廻
[類語]流転
〈輪回〉とも書き,〈輪廻転生〉ともいう。サンスクリットでサンサーラsaṃsāra,英語でtransmigration,metempsychosis。車輪が廻転してとどまることのないように,次の世にむけて無限に生死をくり返すこと。原始段階では,人の死後,霊魂が鳥獣草木や他の人間に転生するという観念が抱かれたが,やがてインドやギリシアにおけるように,生前の行為と転生後の運命が因果的に結びつけられ,洗練された輪廻観が説かれるようになった。
まずインドでは,前8~前7世紀ごろからウパニシャッド哲学において種々の輪廻説が論じられた。そこに共通にみられる主張は,死後,生前の行為(業(ごう)=カルマン)によってその人の主体が他の生物の母胎に入るか,あるいは植物のようなものになる,というものであって,その転生のあり方は善因善果,悪因悪果の応報説にもとづいていた。この輪廻転生は迷いの状態とされ,宗教的実践や倫理的行為によって,生まれ変わり死に変わる生き方から解放されるという考え方がおこった。このような業,輪廻説をはじめに体系的に主張したのは最高の祭司身分であったバラモンたちであり,それ以後,階級差別の社会組織を合理化するための一種の思想的武器として利用されることにもなった。輪廻の考え方はのちに仏教にも受けつがれ,無明(むみよう)(無知)と愛執(あいしゆう)によって輪廻が生じ,それを絶ち切ることによって涅槃(ねはん)や解脱(げだつ)が得られると説かれた。仏教ではこの輪廻のことをとくに〈六道輪廻〉(六道)と呼び,死後の迷いの世界を地獄,餓鬼,畜生,修羅,人間,天上の六つの生き方(転生)に分けて整理した。
古代ギリシアでは,前6~前5世紀のオルフェウス教,ピタゴラス,プラトンなどが霊魂の不滅を説くとともに,その霊魂が他の動植物に生まれ変わって流転するという輪廻説を主張した。プラトンの《ファイドン》によると,魂は現世から来世に行ってそこで生存し,ふたたび現世に帰ってくるという。
日本では,輪廻説は仏教とともに受け入れられた。とくに平安初期に成立した《日本霊異記》のなかに輪廻と応報の諸相が描かれている。インド型の輪廻転生説がどちらかというと過去,現在,未来にわたる時空のなかで考えられているのに対して,《日本霊異記》に表現されている輪廻説は現世主義的な傾向を示しているということができ,その後の日本人の輪廻観をよくあらわしている。
執筆者:山折 哲雄 輪廻をテーマにした仏教説話は釈迦本生譚にみられ,仏伝の中にはその前生にいかに菩薩行を行って仏となったかを説く部分がある。たとえば《涅槃経》では,悉多太子は鹿や熊などの動物からしだいに転生して粟散(ぞくさん)王と生まれ,ついには転輪聖王に生まれて菩薩行を行じて仏となった。これをインドではバールフット塔やアマラーバティー塔,アジャンター石窟などの彫刻に彫って,布教にもちいた。日本では,輪廻説は説話の中にしばしばみられ,《日本霊異記》では他人のものや仏物を盗用したために牛に生まれ変わった話があり,また2人の男が犬と狐に生まれ変わって,互いに殺し合う話も載せている。すなわち仏教説話は輪廻をテーマにして,来世の悪報を説いて,今世の善行と仏教信仰を勧める。また輪廻を信じた平安時代の高僧仁海僧正は,1匹の牛を見て母の転生とさとり,これを買い求めてたいせつに飼った。その死後は皮を鞣(なめ)して曼荼羅を図絵し,その牛皮曼荼羅を本尊として京都山科に建てたのが曼荼羅寺であると伝える。平安時代には空海のような高僧を聖徳太子の生れ変りとするような信仰もおこり,聖徳太子も多生のあいだ仏道を行じた結果,太子と生まれたという説話ができたのも,輪廻思想があったからである。しかしこれを否定する思想もあって,謡曲《安達原》では〈生死に輪廻し五道六道にめぐる事,唯一心の迷なり〉ともあり,輪廻思想はかならずしも日本に定着しなかった。
→因果応報
執筆者:五来 重
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仏教の術語。人間は死後もなんらかの形で存続するという普遍的信念の一つの形態が輪廻で、とくにインドで発展した。人間の本質は実体的な霊魂である。一方、人間の行為(カルマン、業(ごう))はのちに影響を及ぼす潜在的な力(カルマン、業力)を生み、霊魂がこれを担うから、人は死後、生前の業に従ってしかるべき死後世界に生まれ変わる。こうして無限に再生を繰り返すのが輪廻である。サンスクリット語でサンサーラsamsāraといい、「流れ」「回り巡ること」が原意である。死後世界は、基本的には、安楽な世界たる天、罰としての苦の世界たる地獄、人間、そして動物(畜生(ちくしょう))の世界である。業の発現の仕方は「自業自得(じごうじとく)」と「業果の必然性」を鉄則とする。自らの行為の果報はかならず自分に現れ、今世でなければ来世、あるいはその後の生に現れる、善因善果・悪因悪果の因果応報の考え方は現実社会の不平等を巧みに説明し、さらにその不平等を来世で回復してバランスをとりうる可能性を示す。心理的にも説得力があり、またなにゆえに善行をなさねばならないか、という倫理の根拠をも提示しつつ、遅くも紀元前4世紀にはインド社会に定着した。以降、今日に至るまでインド文化の基本的観念として思惟(しい)方法、宗教、哲学、社会慣習などに多大の影響を与えた。仏教では餓鬼(がき)ないし阿修羅(あしゅら)世界を加えた五道、六道輪廻の観念が発達し、東南アジア、中国、韓国、日本、チベットなどの仏教徒の生活をさまざまに規定している。
[奈良康明]
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インド思想の概念。初期ヴェーダ文献での素朴な死後の世界観に代わり,ブラーフマナ文献では,生前の善行の蓄積がなくなり,死後の世界で再び死ぬという観念が生じる。この再死の観念はウパニシャッドの思弁を通じ,生前の善行,悪行の結果,天界,地上界,地獄などでさまざまな姿をとり生死を繰り返すという輪廻思想として確立され,ヒンドゥー教,仏教,ジャイナ教に定着する。各宗教は輪廻の苦しみからの解脱(げだつ)の方法をさまざまに教える。
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… 仏教はそこに〈業(ごう)〉の理を導入した。業とは本来は単に人間の行為のことであるが,一つの行為は必ず善悪・苦楽の応報をもたらすという因果観と結びつくことで,業は一種のパワーとみなされ,そこから過去・現在・未来の三世にわたる輪廻(りんね)の思想が,しだいに中国人の生死観に定着するようになった。こうして因果応報の観念は,超自然的ないし宗教的な枠組みへと拡大したのであるが,それが民衆教化の便法として〈勧善懲悪〉の教えに通俗化されると,世間法との自然な習合によって再び現世倫理と密着しつつ中国在来の宿命論的天命観と融合していった。…
…モークシャmokṣa,ムクティmuktiなどの漢訳語。古来,インドで宗教の最高目標とされてきたもので,輪廻(りんね)(サンサーラsaṃsāra)からの脱却,〈苦〉からの脱却,永遠の生,不死など種々の定義があるが,全体として必ずなんらかの意味で輪廻からの脱却ということにかかわっている。歴史的にも,解脱の考えは輪廻思想の誕生と同時に発生している。…
… またこれとともに注目すべきことは,この時代になって初めて仏教が知識人の関心をひくようになったことである。その際仏教が六朝の知識人の心をとらえたのは,第1点は仏教の根本義である〈空〉が老荘の〈無〉に通ずるものをもつこと,第2点は従来の中国にはまったくなかった輪廻(りんね)説,三世報応説をもたらしたことである。ここでは第2点について見よう。…
…1カルパは1000マハーユガに相当し,1マハーユガはクリタユガ,トレーターユガ,ドバーパラユガ,カリユガから成り,後のユガは前のユガよりも人間の信仰・道徳性などにおいて低下しており,現在は前3102年に始まった暗黒期にあたるカリユガに当たっており,この期の終りに大帰滅が起こるといわれている。(2)業と輪廻 人間は死んで無に帰するのではなく,各自の業のために,来世において再び新しい肉体を得る。このように生死を無限に繰り返す。…
…たしかに古代のインド人は,同時代のギリシアや中国で書かれた史書のような,史実を平易な文体で正確に記述した作品を,後世にほとんど伝えていない。その理由としてこれまで一般に挙げられてきたのが彼らの生命観・世界観であり,そこでは,(1)インド人は個人の生命を永遠に輪廻転生を繰り返す霊魂のごく一時的な存在としてしかみなかった。(2)現実世界に発生する政治や社会のできごともまた一時的現象とされ,なんらの重要性ももたぬものと考えられた。…
※「輪廻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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