改訂新版 世界大百科事典 「イクビゴケ」の意味・わかりやすい解説
イクビゴケ
Diphyscium fulvifolium Mitt.
キセルゴケ科の小型の蘚類。東アジアに分布し,日本では本州以南の山地に普通に産し,土上に群生する。茎はごく短く,高さ数mm。葉は放射状に配列し,披針形,湿ると広がるが乾くと強く巻縮する。雌雄異株で,雌苞葉は蒴(さく)を抱いて直立し,その中央脈が針のように突出する。蒴は大きく広卵形,明瞭な背腹性を示し,腹面が大きくふくれる。蒴の背面に圧力がかかると,微小な胞子が弾丸のように噴出するという珍しい特徴をもっている。イクビゴケは“猪首ごけ”の意で,蒴柄が短く蒴がずんぐりしている特徴に基づく。中国でもイクビゴケ属Diphysciumを短頸蘚といい,英語でもant's egg mossとかnut mossという。ミヤマイクビゴケD.foliosum(Hedw.)Mohr.は北半球の高緯度地域に広く分布し,日本では中部地方の高山に生育する。イクビゴケに比して葉が細長い。
執筆者:北川 尚史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報