日本大百科全書(ニッポニカ) 「イスラー」の意味・わかりやすい解説
イスラー
いすらー
Isrā'
イスラム教において、預言者ムハンマド(マホメット)が翼をもつ天馬ブーラークに乗り、メッカからエルサレムに飛んだという「夜の旅」の奇跡。これは、コーランに表れるムハンマドの数少ない奇跡の一つで、「聖なるモスクから、遠隔のモスクまで、その僕(しもべ)を、夜の旅に連れ出したもうたお方に栄光あれ」(17章1節)に基づいている。「聖なるモスク」がメッカのカーバ神殿を、「僕」がムハンマドを意味することは古来から解釈が一定している。「遠隔のモスク」は、初期の解釈では天国を意味していたが、ウマイヤ朝になってエルサレムの神殿に比定された。しかし天国への旅のモチーフも保存されたので、ムハンマドはまず天馬に乗ってエルサレムに旅し(イスラー)、それから光の梯子(はしご)に登って天上飛行(ミュラージュ)したと考えられるようになった。なお、女面の天馬ブーラークに乗って空を飛ぶムハンマドは、しばしばミニアチュール(細密画)の題材となっている。
[竹下政孝]