昇降のための道具。代表的な形は2条の長い材の間に,足がかりの横木(踏子(ふみこ))を一定の間隔で取り付けたもので,これを対象に寄せかけて立て,昇降する。猿梯子とも呼ばれ,木製が多いが竹製,金属製などもある。梯子は古く〈はしのこ〉と呼ばれ,〈こ〉は木の葉(このは)などと同じく〈木〉の古形であり,〈はし〉は端,橋などと同根で,端と端の間に渡すという意味である。〈はしのこ〉は端と端の間に渡した横木を指したが,これがいつしか梯子全体を指すようになったと思われ,梯子を立てることを梯立(はしたて)ともいった。梯子の種類には一本梯子(雁木(がんぎ)梯子),二また梯子,縄梯子,折りたたみ梯子,棒梯子などがある。一本梯子は〈きざはし〉とも呼び,沖縄では単に〈はし〉ともいう。1本の太い木に刻みを入れたもので,高倉や社殿あるいは鉱山などに使われた。昇降のときは刻みを踏み,籾俵などを降ろす際は逆にして刻みのない部分を滑り降ろすのに便利で,沖縄やアイヌの庫にもみられる。二また梯子は沖縄で使われるもので,猿梯子と一本梯子を折衷したものである。二またの木を利用し,下方の1本の部分に刻みを入れ,上方の2本に分かれている部分には横木を渡してある。縄梯子は麻やシュロなどの細縄で梯子の形に作り,一端に鉤をつけ対象にかけて昇降する。攻城用などに使われたが,現在ではおもに非常用として使われている。折りたたみ梯子は金属製が多く,真ん中から二つに折れ,逆V字形に組み立てて脚立(きやたつ)として用い,伸ばせば梯子として使える。棒梯子は柱梯子とも呼ばれ,折りたたみ梯子の一種。丸太を縦に二つ割りし,中をくりぬいて,木釘で留めて加動性をもたせた横木を渡してあり,使うときは広げ,猿梯子の形となる。不要のときは横木が斜めに動き丸太状となる。運搬,収納に便利で,東北地方の山間部で使われていた。日本における梯子は,すでに弥生時代から存在が知られる。香川県出土と伝える銅鐸には,猿梯子がかけられた高床倉庫がみられ,静岡県伊豆山木遺跡や登呂遺跡からは一本梯子が出土している。また古墳時代でも,奈良県佐味田宝塚古墳出土の家屋文鏡に一本梯子がかけられた高床倉庫が鋳出されている。しかし丸太を蔓(つる)などで結びつければ使用できる猿梯子のほうが,より古くから存在したと考えられる。
執筆者:小泉 和子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
高いところに登るための道具。用材、用途、形状によって長梯子、竹梯子、棒梯子、縄梯子、丸木梯子などがある。通常は2本の長い縦木(柱)の間に、足をかける横木(踏桟)を一定間隔で取り付けたものである。この形の梯子はすでに、高倉にかけたところが銅鐸(どうたく)に描かれており、弥生(やよい)時代には使われていた。長梯子は一間半から二間(一間は約1.8メートル)の長さのものが一般的で、屋根に上ったり、建築、造林などに用いられる。縦木にはスギ、ヒノキを使い、30、40センチメートルの間隔をとり、その間にスギやカシなどでつくった横木を枘(ほぞ)で組んだものが多い。山村では二またに伸びた立木を切り、そのまま縦木に利用したものもある。竹梯子は縦木に丸竹を用い、横木をシュロ縄で結び付けたもので、江戸時代の町火消が使った。棒梯子は1本の木を縦に二つ割りにし、その間に横木を入れたもので、不要なときは畳んでおくことができる。これは長さ一間程度の梯子である。縄梯子は2本のアサ、シュロなどの縄に横木をつけ、縄の先に鉤(かぎ)をつけて利用した。以上の梯子に対し、丸木梯子は、1本の丸太に足をかけるところを刳(く)ってつくったものである。これは静岡県の登呂(とろ)や山木遺跡からも出土している。弥生時代には高倉用の梯子として使われた。最近は金属製のさまざまな梯子があり、軽くて持ち運びが便利なようになっている。前述の木の長梯子は自分でつくるか大工につくらせるが、梯子屋といって専門の職人もあった。なお梯子には、横木に腰をおろすと魔物にさらわれるとか、梯子の下をくぐると災難があるなどの俗信もある。
[小川直之]
…もとは雲にとどくほどの長いはしごの意味で,城攻めの道具であった。《墨子》には公輸般が製したと見えるが,朝鮮や日本でも用いられた。現在は,子どもたちが懸垂運動をするための体育・遊戯施設をいい,金属パイプ製のはしごを横にし,その両端を支柱で固定したもので,水平型,山型,太鼓橋型など各種ある。両手でぶら下がり,体を振動させながら手を握りかえて移動していくのが普通の使い方であるが,その上を四つんばいになったり立ったりして歩いて渡っていく使い方もある。…
※「梯子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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