改訂新版 世界大百科事典 「ウェット印刷」の意味・わかりやすい解説
ウェット印刷 (ウェットいんさつ)
wet printing
カラー印刷において,たとえば4色を刷り重ねるとき,前に刷ったインキが乾かないうちに,次々と刷り重ねること。湿式印刷ともいう。一般にカラー印刷は,枚葉紙に1色刷るごとに乾かし,次の印刷をするから,4色刷りではかなり手間と時間を必要とし,生産がはかどらない。とくにコート紙やアート紙を使用するカラー印刷では,新聞紙のようにインキが紙に浸透して乾燥するということがない。また,カラー印刷に多用されるオフセット平版印刷では,巻取紙を使って連続的に各色インキを刷り重ねる方法がもっとも生産性が高いから,いきおい未乾燥インキの上に次のインキを重ねることになる。この場合,ヒート・セット・インキという速乾性のインキを用い,半乾燥状態のインキ膜の上に次のインキが乗るように設計し,4色(一般には表と裏4色ずつ計8色)刷り終わったところで乾燥機に入れ,一度に乾燥させてしまう。この機構を円滑に行うには,次々と重ねられるインキのタックネス(粘り)をしだいに小さくしていく。そうでないと,前に刷ったインキをはぎとってしまうことになる。各色の刷順は,昔は黄,赤,藍,墨(黒)の順であったが,現在は顔料の質が向上し,透明になってきたので,かならずしも,この順序でなくともよい。
カラー印刷は,原色版やグラビアでも行われ,とくに後者は巻取紙に高速印刷されるが,ウェット印刷とはいわない。
執筆者:山本 隆太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報