改訂新版 世界大百科事典 「エウスタキウス」の意味・わかりやすい解説
エウスタキウス
Eustachius
古代ローマの殉教聖人。生没年不詳。元来はトラヤヌス帝軍の将校プラキドゥスPlacidus。伝説によれば,彼は狩りで追った鹿の角の間に,輝くキリストの磔刑(たつけい)像が現れるのを見て回心,受洗してエウスタキウスと名のった。後に職を追われてエジプトに向かう途中,妻を人質にとられ,2人の子どもを野獣にさらわれる。さまざまな苦難の後に再会するが,ハドリアヌス帝のもとで,家族ともども青銅製の雄牛の中に閉じこめられて焼かれるなどして殉教した。狩人の守護聖人で,美術上は軍人(騎士)または狩人の姿で表され,持物は磔刑像を頂く鹿の頭(軍旗に付されることもある)。生涯の逸話の中では狩猟中の幻視がもっとも好んで表現される。中世末期以降,同様の伝説をもつフベルトゥスがしだいに崇敬されるようになり,エウスタキウスの美術表現は少なくなってゆく。祝日は9月20日。
執筆者:荒木 成子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報