オーストラリア諸言語(読み)おーすとらりあしょげんご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オーストラリア諸言語」の意味・わかりやすい解説

オーストラリア諸言語
おーすとらりあしょげんご

オーストラリア先住民の言語の総称。オーストラリア大陸には少なくとも4万年前から先住民が住んでいたといわれる。その言語は約200年前の白人到来時に約200あったが、現在話されているのは40~50である。その系統はわからないが、言語の構造は大陸全体が非常によく似ているので、オーストラリア先住民諸言語は一つの語族をなすだろうといわれている。

[角田太作]

音韻

北西部のジャロ語は以下の音を区別する。p, t, rt, ty, k; m, n, rn, ny, ng; l, rl, ly; rr, r; y, w; a, i, u, aa. これはオーストラリア先住民語のなかではかなり典型的な音韻体系である。すなわち、無声閉鎖音(p, t, rt, ty, k)と有声閉鎖音(b, d, rd, dy, g)の区別がない。したがって、p, t, rt, ty, kのかわりにb, d, rd, dy, gと書いてもよい。三つのl音、二つのr音を区別し、歯茎音(t, n, l)とそり舌音(rt, rn, rl)も区別するが、母音はa, i, uの三つしか区別しない。

[角田太作]

文法

名詞代名詞動詞などは日本語のように語尾で活用を示す。これらはかなり複雑な活用体系をもつ。たとえばジャロ語の名詞は下記の格をもつ。絶対格、能格・道具格、場所格、与格(1)、与格(2)、方向格、出発格。ジャロ語動詞の活用は、単純過去、過去進行、過去習慣、単純現在、現在進行、単純未来、未来進行、単純命令、命令進行、単純三人称命令、三人称命令進行、単純非現実、非現実進行、不定形である。一般に人称代名詞単数(1人)、双数(2人)、複数(3人以上)を区別する。たとえばジャロ語では、nyuntu(あなた1人)、nyunpula(あなたがた2人)、nyurraa(あなたがた3人以上)となる。名詞は普通、日本語同様に数の区別がない(次の例文〔1〕〔2〕で、たとえば男は1人、2人、3人以上の三つの可能性がある)。大部分の原住民語は能格型文型をもつ。すなわち、自動詞主語と他動詞目的語を同じ形(絶対格、普通ゼロ語尾-ø)で示し、他動詞主語を特別の形(能格)で示す。以下はジャロ語の例である。

〔1〕mawun-ø  nyinang-an-i
 男―絶対格  座る―進行―過去
 男が(自動詞主語)  座っていた。

〔2〕mawun-tu  kunyarr-ø  pung-an-i
 男―能格  犬―絶対格  打つ―進行―過去
 男が(他動詞主語)  犬を(他動詞目的語)  打っていた。

[角田太作]

敬遠語

原住民社会では生活のさまざまな面が親族関係に規定されている。たとえば男とその妻の母(すなわち義母)はタブーの関係にある。お互いに近づいたり、話したりすることは禁じられている。もしタブーの相手について話すときには敬遠語を使わなければならない。ジャロ語では、敬遠語は次の二つの点で日常語と異なる。(1)タブーの相手をさすときには、人称代名詞は単数形(1人)でなく複数形(3人以上)を使う。(2)動詞はすべての場合に、「する」「なさる」のような、一般的な意味の動詞を使う。たとえば義母について話すときには、「彼女は水を飲む」のようにいわないで、「彼女たちは水をなさる」のようにいう。

[角田太作]

『R. M. W. DixonThe languages of Australia (1980, Cambridge University Press)』『T. TsunodaThe Djaru language of Kimberley, Western Australia(1981,Pacif- ic Linguistics Publications, Australian Na- tional University, Canberra)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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