改訂新版 世界大百科事典 「ゲセルハン物語」の意味・わかりやすい解説
ゲセル・ハン物語 (ゲセルハンものがたり)
9世紀以降チベット北東部の遊牧チベット族の間で成立したとみられる英雄叙事詩。詩は25部から成り,そのおもな内容は,主人公のリン国の王ゲセルGeser(Gesar)khanの生い立ち,各種の妖魔鬼怪との戦い,北方のホル・ジャン諸国との戦い,チベット本土への救援活動,中国との戦いなどの物語である。16~17世紀ころからこの物語はチベット,青海,甘粛,四川,雲南,内モンゴルのチベット・モンゴル族区をはじめ,遠くラダック,ブータン,シッキム,外モンゴル,ザバイカル諸地方にまで伝播した。この物語の鑑賞には主として放浪の職業芸人による弾唱の形がとられたが,写本や版本も各地で作られた。現存のテキストにはチベット語,モンゴル語,ブルシャスキー語によるものがあり,近年チベット語からの漢訳も行われている。なおゲセルはその超人的武勇により軍神としてラマ教寺院にまつられた場合がある。
執筆者:若松 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報