改訂新版 世界大百科事典 「さまよえるオランダ船」の意味・わかりやすい解説
さまよえるオランダ船 (さまよえるオランダせん)
Flying Dutchman
ヨーロッパの水夫たちに伝えられる幽霊船の最も代表的なもの。喜望峰周辺の海に,しかも嵐の夜にだけ姿を現し,これを見た者は凶運に見舞われるという。伝説によれば,オランダ人船長ファン・デル・デッケンVan der Deckenが嵐の中でも航海できると豪語して神の逆鱗に触れ,永遠に海上をさすらうことになったという。実見談も多く報告されており,イギリス国王ジョージ5世が海軍士官時代の1881年7月11日に目撃した例などが有名。なお,Dutchmanとは正しくはオランダ船のことだが,これをオランダ人と解し,船長自身を指す場合もある。またドイツでは,船長はフォン・ファルケンベルクVon Falkenbergと呼ばれ,神罰を受けて北海をさまよいながら,甲板で悪魔を相手に魂を賭けてサイコロを振っているなどと伝えられる。これらの伝説は,疫病等の発生した船が世界の港から締めだされる事情から生じたものらしい。W.R.ワーグナーの楽劇《さまよえるオランダ人》(1841),コールリジの《老水夫行》,マリヤットの《幽霊船》(1839)等の作品は,この伝説に想を得ている。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報