幽霊船(読み)ユウレイセン(英語表記)ghost ship

デジタル大辞泉 「幽霊船」の意味・読み・例文・類語

ゆうれい‐せん〔イウレイ‐〕【幽霊船】

乗組員すべてが死に絶え、その霊が船上にとどまったまま怪奇な漂流を続けるという伝説上の船。

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精選版 日本国語大辞典 「幽霊船」の意味・読み・例文・類語

ゆうれい‐せんイウレイ‥【幽霊船】

  1. 〘 名詞 〙 その船に乗っていた者が、なにかの原因で死滅し、その魂が救われないまま船中にとどまって海上を漂流しているという伝説上の船。その船に出会うと災難を受けるとされた。
    1. [初出の実例]「島の不毛のすがたは、ちょうど行き交う幽霊船の外からうかがうことのできる甲板上の細部に似ている」(出典:島へ(1962)〈島尾敏雄〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「幽霊船」の意味・わかりやすい解説

幽霊船 (ゆうれいせん)
ghost ship

海上に出没する奇怪な船の総称で,〈さまよえるオランダ船〉のように神罰を受け永久に港へ帰れない船,悪霊に憑(つ)かれ出現と消滅を繰り返す船などを指す。大西洋上に現れるというフランスの幽霊船美しきロザリー号は,目撃者に災いをもたらすといわれて恐れられ,またアイルランドでは風上に向かって進む怪船の伝説がある。これらは古代エジプトや北欧でみられた葬送儀礼と船との強い結びつきに由来したり,日本の船霊(ふなだま)信仰のような古い習俗にかかわるものとも考えられるが,反面,蜃気楼や〈セント・エルモの火〉の見誤り,あるいは乗組員を失った漂流船との遭遇体験から派生する場合も多い。しかし中には相当詳細な調査が行われた例もある。たとえば1872年12月にアゾレス諸島沖で発見されたマリー・セレスト号は,出航後19日目まで記入された航海日誌を残し,乗員9名全員が姿を消した状況が精査された。しかし乗員消滅の謎は解明されず,一時は発見者が殺害したのではないかと思われた。また1880年1月には乗員300名を乗せたイギリス海軍の練習船アタランタ号が大西洋上で消息を断った。捜索によってもこの船の遭難を証明するものは発見されなかったが,その後海上でこれに出会ったと主張する船,さらに沈没を知らせる走り書きを入れた瓶や若い海軍兵の死骸を乗せたいかだを発見したとする通報が相次いだ。

 幽霊船には海上でなく空中を航行するものも知られ,1798年にはアイルランドで空を行く船が目撃されたという。またブルターニュ地方コーンウォールでは,嵐が近づいたり著名人の死が迫れば〈陸を走る船〉が現れるといわれる。ほかに悪霊に憑かれた船として著名なのが,1915年に建造されたドイツの潜水艇UB-65である。この船は第1次大戦に出撃したが,戦死した乗組員の亡霊を目撃する者が続出したため1918年7月に洋上で乗り捨てられたという。これら幽霊船は,UFOに関してユングが論じたように,個人や社会の中の期待や絶望の具体的な投影とも解することができよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「幽霊船」の意味・わかりやすい解説

幽霊船
ゆうれいせん

殺された人の魂が救われないまま船中にとどまり、海上を漂流するという伝説上の船。1066年にイギリスのヘースティングズの戦いで敗死したイギリス新王ハロルドは、戦いの前に幽霊船の夢をみた。同じころ夜空にハリー彗星(すいせい)が飛んだ。ともに凶兆である。この戦いに勝ってイギリスにノルマン王朝を開いたウィリアム征服王の栄光を描いた「バイユー・タペストリー」という刺しゅう大絵巻(11世紀後半の制作)には、不安におののくハロルド新王の下の縁(ふち)には無人の幽霊船が、上の縁にはハリー彗星が刺しゅうされている。おそらく、幽霊船が描かれたものとしてはもっとも古い記録であろう。夢のなかの幽霊船は不吉のしるしとして強い実在感を与えたはずである。

 なんらかの原因で命を絶たれた乗組員の魂がとどまったまま漂流を続けるという幽霊船の伝説は、大船による遠隔地貿易が栄えだした中世後期から盛んになる。大船といえども海洋気象の変化や運行技術の未熟、組織的な海賊の暴力などによって乗組員の全員を失った無人船となる例はけっして少なくなかったはずである。航行する船舶から幽霊船とみなされた船の多くはこうした無人船だった。永遠にのろわれたオランダの船長が海上をさすらい続ける「さまよえるオランダ人」伝説も、本来は喜望峰に関する17世紀のものであった。幽霊船が普通の船と違う点は、風に逆らって帆走するとか、船の灯が海面に映らないというような不思議な現象を伴っていることである。ドイツの作家ハウフの作品『幽霊船』では、血まみれの死体が夜中に帆を張って騒ぎだし、夜明けとともにもとの死体に返る。そしてその幽霊船とすれ違った船は難破する。50年間も走り続けてきた幽霊船が、信仰の厚い人の祈りによって呪(のろ)いを解かれ、船中の死体が消え去ってしまうというものである。こうした幽霊船伝説はイスラム教国にもある。

[飯塚信雄]

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世界大百科事典(旧版)内の幽霊船の言及

【船幽霊】より

…海上で遭難した人の亡霊が幽霊船(幻の船)に乗って,漁師などこの世の人に働きかけるという霊異現象。死後に子孫にまつられず海上をさまよう死霊の信仰が根底にあって,危険な海で生活する者にこうした幻覚を起こさせたものと思われる。…

※「幽霊船」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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