日本大百科全書(ニッポニカ) 「シノワズリー」の意味・わかりやすい解説
シノワズリー
しのわずりー
chinoiserie フランス語
ヨーロッパに運ばれた中国美術、とりわけヨーロッパ美術に表れたシナ(中国)風の題材を扱った作品の総称。3世紀シリアの絹製品、マルコ・ポーロの時期のイタリアなど例外的に早い例もあるが、一般的には17世紀後半から19世紀初頭にかけての建築や絵画、各種の工芸品などに頻出する。ル・ボーの設計になるベルサイユの「陶器のトリアノン」、ティエポロがバルマラナ荘の「フォレスティア」に描いた壁画装飾、イギリスのジョージ4世のためにブライトンにつくられた「ロイヤル・パビリオン」などがもっとも著名な例であり、アラベスク模様やグロテスク模様にシノワズリーを初めて持ち込んだのはワトーとされている。これは、ヨーロッパが経験した数多くの異国趣味の一つであるが、近世のヨーロッパ人はけっして中国ないしは中国美術を正しく理解しておらず、末梢(まっしょう)的な部分を主として装飾工芸に応用するという皮相的な段階から先に進まずに終わった。この点ジャポニスムの流行と区別して考える必要がある。
[池上忠治]