改訂新版 世界大百科事典 「せりふ尽し」の意味・わかりやすい解説
せりふ尽し (せりふづくし)
役者の名せりふ集。歌舞伎狂言の中で,ある特定の役者が評判をとった役の名せりふを集めて版行した小冊子。江戸では,早く延宝(1673-81)ごろにその刊行がはじまっており,初期の歌舞伎台本の一部としても,歌舞伎研究上,貴重な資料といえる。その内容は,名のり,つらね,六方詞をはじめ,もの尽し,物売,早口,地口,掛合,敵討物語,意見のせりふ,《暫》のせりふ,《助六》の男達(おとこだて)のせりふなど種々のものがある。以後,〈せりふ尽し〉の刊行はしだいに盛んとなり,声色(こわいろ)本として,安永(1772-81)初年には〈鸚鵡石(おうむせき)〉が,明治になってからは〈影芝居〉などの刊行をみるに至った。なお,テキストには,稀書複製会本に,《六方こと葉》(1673),《せりふ大全》(1709ごろ)などがある。
→声色
執筆者:宮本 瑞夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報