化学辞典 第2版 「ゼロ磁場分裂」の解説
ゼロ磁場分裂
ゼロジバブンレツ
zero field splitting
外部磁場が存在しなくても,結晶場,スピン間の相互作用,スピン-軌道相互作用などによって多重項の縮退がとれてエネルギー準位の分裂が起こることをいう.実際には電子スピン共鳴吸収の微細構造によってその事実が確認される.たとえば,ある物質に軸対称な結晶場があるとき,この軸に平行に外部磁場Hをかけた場合のスピンに関するハミルトニアンℋは,
ℋ = DSZ2 + gμBH・S
と表される.ここで,Dは結晶場の強さを表す定数,gはg因子,μB はボーア磁子である.この物質の基底状態が三重項であるとすると,上のハミルトニアンの固有値は SZ = 1,0,-1に対応して
E+1 = D + gμBH,E0 = 0,E-1 = D - gμBH
となり,SZ = ±1と SZ = 0の準位は磁場がなくても分裂する.この結果,1本であった電子スピン共鳴の吸収線が2本に分かれる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報