【Ⅰ】多重周期系では振動数
νk = 2π/Tk
(Tk は周期,自由度がfであればk = 1,2,…,f )の間に c1s,c2s,…,cfs を整数としてn個の線形関係,
c1sν1 + c2sν2+…+ cfsνf = 0,(s = 1,2,…,n)
が存在するとき,この多重周期運動はn重だけ縮退(または縮重)しているという.量子力学系では,物理量を表す演算子Aのある固有値aに対して,線形独立なn個の固有関数が存在するとき,aはn重に縮退しているという.このとき,系の状態を指定するには演算子Aの固有値だけでは足らず,Aと可逆なほかの物理量に対する固有値を与える必要がある.縮退が起こるのは系にある種の対称性が存在するためで,したがって,その対称性を破るような摂動を加えれば縮退はとれる.もっとも簡単な例として,CO2の分子振動をとると,O-C-Oの変角振動には分子軸を含む互いに直角な平面内における二つの振動があるが,この両者は振動数はまったく同じで,二重縮退変角振動という.【Ⅱ】量子統計において,ボース統計に従うボース気体は
μ/kT = 0
で,またフェルミ統計に従うフェルミ気体は
μ/kT ≫ 1
で,両気体は古典統計に従う一般の気体とはいちじるしく異なる現象を示し,縮退(または退化)しているという([別用語参照]縮退気体).ここで,μは化学ポテンシャル,kはボルツマン定数,Tは絶対温度である.縮退気体の比熱容量は温度の減少とともに減少し,絶対零度で0となる.これは力学系での自由度の減少に対応するかのようにみられるので,縮退という言葉が用いられた.極低温におけるヘリウム,金属内の電子,白色わい星などは縮退している.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
線形演算子Aに対し,Ax=λxを満たす数λをAの固有値,x(≠0)を固有ベクトルというが,固有値λに対して複数個の線形独立な固有ベクトルが存在するとき,固有値λは縮退(または縮重)しているという。量子力学においては,ハミルトニアン演算子Hの固有値は定常状態のエネルギーに対応するので,エネルギー準位について縮退がいわれることが多い。一般に縮退があるのは,系になんらかの対称性があるからであり,例えば球対称なポテンシャル中で運動する粒子のエネルギー準位は,軌道角運動量をlħ(ħはプランク定数hを2πで割ったもの)とすると,2l+1重に縮退している。電場や磁場を加えると対称性が破れ,1本であったエネルギー準位は,近接する2l+1本の準位に分裂する。磁場による準位の分裂をゼーマン効果という。量子統計力学における縮退degenerationはまったく別の概念で,粒子の同一性のために,系の自由度の一部が凍結されたように見える現象をいう。フェルミ粒子についてはフェルミ縮退,ボース粒子についてはボース=アインシュタイン凝縮と呼ばれる。
執筆者:小柳 義夫
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量子力学において一つのエネルギー準位に対して2個またはそれ以上の定常状態が属する体系をさすことば。縮重とよぶこともある。一般には、エネルギーに限定せずに広義に考えて、物理量を表す演算子のある固有値に属する線形独立な固有関数がn個あるとき、n重に縮退しているという。また、古典力学においては、微小振動の基準振動数のうち何個かが一致した場合、また多重周期運動で基本振動数の間に何個かの線形的関係が存在する場合には、縮退ということばが用いられる。量子力学に従う体系では、物理的状態は互いに交換可能な演算子の固有値の組によって指定される。エネルギー(ハミルトン関数の固有値)が同じで、他の固有値が異なる量子状態が存在する場合、この系は縮退している。たとえば、水素原子における電子のエネルギー固有値は、クーロン引力が中心力であることから軌道角運動量のある方向(量子化軸の方向)への成分の固有値mによらず、さらにクーロン力の特性のため軌道角運動量の大きさを示す固有値lにもよらない。この場合には、軌道角運動量(固有値lとm)について縮退しているが、磁場が作用するとmについての縮退は解ける。縮退は体系のもつ対称性に起因して生じ、その対称性を破る作用が働くと、その縮退は解ける。この作用が対称性を保証している作用に比して弱ければ、縮退は近似的に成立し、状態を分類するうえで有用な目安となる。数学では固有値問題において固有値に対する異なる固有ベクトルが複数存在することをいう。
[玉垣良三・植松恒夫]
…各エネルギー準位には一つまたは何個かの定常状態が対応する。複数の状態が対応するとき,準位が縮退degenerationしているという。定常状態を単にエネルギー準位という場合もある。…
…ゆえに主量子数nのエネルギー準位には合計n2個の状態がある。このように複数個の状態が等しいエネルギーをもつとき,そのエネルギー準位は縮退しているという。z方向に磁場をかけると,上記の量子数mのそれぞれの値に応じてエネルギーの差ができるので,mを磁気量子数と呼ぶ。…
…一方,M.シェーンベルグとS.チャンドラセカールが示したように,完全気体の等温核は質量が全体の約1割をこえると不安定でつぶれてしまう。もともと密度の高い小質量星の中心部ではそのころ密度が大きくなりすぎて電子が量子力学的効果のため完全ガス状態からはずれ,縮退といわれる固体金属のような状態となる。この場合,密度を上げれば大きな圧力を出すことができて重力崩壊を防ぐ。…
※「縮退」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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