日本大百科全書(ニッポニカ) 「電子スピン共鳴」の意味・わかりやすい解説
電子スピン共鳴
でんしすぴんきょうめい
電子スピンによる磁気共鳴のこと。1945年にソ連のザボイスキーEvgeny Konstantinovich Zavoisky(1907―1976)によって初めて行われた。スピンsの電子(磁気モーメントμ)を磁界Hの中に置いて次の条件を満たす周波数νの電磁波を加えると磁気共鳴がおこる。
ν=(μ/sh)H (hはプランク定数)
νは1万ガウスの磁界中では28ギガヘルツ、すなわち波長1.07センチメートルのマイクロ波となるが、1980年以降は10万ガウス以上の磁界も用いられるので遠赤外光まで及んでいる。固体などでは熱平衡になっている系の共鳴による電磁波の吸収をエレクトロニクス的に観測する方法がとられる。物質中に存在する電子スピンとしては、磁性イオンや分子の自由基に類するものなどがあるが、いずれも周囲の結晶電界の影響を大きく受けることが多い。また、常磁性結晶のような磁性化合物においては、それに加えて磁性イオン間の相互作用が大きい。したがって、磁気共鳴の様相は複雑になるが、その解析から磁性イオンのふるまいが明らかにされ、結晶などの磁性そのものの解明に大いに役だっている。さらに常磁性物質は、相互作用の大きさで決まる一定温度以下で、強磁性、反強磁性などに転移するが、それらについても磁気共鳴の研究が行われている。また、化学、生物学的研究にも広く利用されている。
[伊藤順吉]
『伊達宗行著『新物理学シリーズ20 電子スピン共鳴』(1978・培風館)』▽『大矢博昭・山内淳著『電子スピン共鳴――素材のミクロキャラクタリゼーション』(1989・講談社)』▽『池谷元伺・三木俊克著『ESR顕微鏡――電子スピン共鳴応用計測の新たな展開』(1992・シュプリンガー・フェアラーク東京)』