ヨーロッパ連合(EU)加盟国の領域内において国際的保護を求める庇護(ひご)申請が申し立てられた場合、申請を優先的に審査する国を決定するための規則。原則として、難民としての庇護を求める者は、最初に到着したEU加盟国で申請を行い、審査が実施されることになる。申請はかならず一つの国によってのみ審査され、加盟国間でたらい回しにされたり、一度却下された者が他国で申請を再度試みたりすることは認められない。なお、申請者の家族がいるなどのつながりをもつ国がある場合は、その国に移送され審査を受けることになる。また、ダブリン規則の実効的運用を目的として、EU内で庇護申請を行った者は、ユーロダック(Eurodac)というデータベースシステムに登録される。
1990年に制定されたダブリン条約(1997年発効)は2017年までに二度改正されている。1999年にアムステルダム条約が発効したことで、ヨーロッパ共通庇護政策の確立を目ざすことになった。2003年には、ダブリン条約を一部修正し法制度化したダブリン規則(ダブリンⅡ)が、さらには2013年にその改訂版(ダブリンⅢ)が制定された。2017年時点で、EU加盟国28か国に加えて、アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタイン、スイスの合計32か国において適用されている。
シェンゲン領域内では出入国審査なしで自由に移動できるため、ダブリン規則が適用されなければ、よりよい条件を求めて庇護申請先を選ぶ者が出てくることになる。そのような事態を防ぐため、申請せずに別の国に移動した場合、最初に申請すべきであった国に送り返される。結果としてイタリアやギリシアといった、難民としての庇護を希望する者が最初に到着することが多い国に、申請手続が集中することになる。
2015年以降、北アフリカや中東諸国からEUへ大量に人が移動してきたため、ダブリン規則が機能不全に陥った。庇護申請者の集中する国は、加盟国間における受入れ負担の公平な分担を求めている。同年5月には「ヨーロッパ移民・難民アジェンダ」が発表され、そのなかで各加盟国に対する割当制度が提示された。これにはハンガリー、チェコ、ルーマニア、スロバキアといった国々が強固な反対姿勢をとっている。こうした状況を受けて、EUはダブリン規則の見直しを迫られている。
[柄谷利恵子 2018年6月19日]
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