改訂新版 世界大百科事典 「ダローの書」の意味・わかりやすい解説
ダローの書 (ダローのしょ)
Book of Durrow
中世の大型羊皮紙福音書装飾写本。675年ごろ製作。中世を通じて聖コロンバの手になるものと信じられ,10世紀にアイルランド王フランによって聖遺物箱に収められて同聖人の創設になるダロー(オファリー県)の修道院に伝えられた。大きさは24.5cm×14.5cmで,248葉を数える。共観表,聖ヒエロニムスの手紙等を含む前置きをもつ純粋のウルガタ訳福音書であるが,福音書記者の象徴のページで始まり大型装飾ページが続く装飾形式をもつ,最初の完全なケルト・サクソン系の福音書とされる。彩飾にはラ・テーヌ最末期のらせん文や古代末期の組紐文,アングロ・サクソンのもたらしたゲルマンの動物組紐文様等を用い,金工品の文様との類似が著しい。現在,ダブリンのトリニティ・カレッジ図書館蔵。
執筆者:岸本 雅美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報