デモフォン(読み)でもふぉん(その他表記)Demophon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「デモフォン」の意味・わかりやすい解説

デモフォン
でもふぉん
Demophon

ギリシア神話のエレウシス王ケレオスの子。娘のペルセフォネ冥界(めいかい)の王ハデスに奪われた女神デメテルは、ハデスに助力したゼウスを恨んでオリンポスを去った。そして老婆に身をやつしてケレオスの館(やかた)へやってきた彼女は、ケレオスの妻メタネイラから、生まれてまもないデモフォンの養育を頼まれ、乳母(うば)となる。デメテルは心を込めてデモフォンを育て、その死すべき部分を焼き捨て、ひたすら不死にしようとアンブロシアを彼の肌に塗り、夜ごと火中に投げ込んだ。デモフォンの神にも似た成長ぶりをいぶかったメタネイラは、ある夜ひそかにのぞいて見るが、火炎に包まれるわが子を見て大声をあげてしまう。怒ったデメテルはデモフォンを火中から取り出し、床へ放り投げると不死の身になれたはずなのにといって立ち去る。一説によれば、母親の不心得からデモフォンはそのまま炎に焼かれてしまったともいう。

[伊藤照夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のデモフォンの言及

【アーモンド】より

タンホイザー伝説においても,ウェヌスの都で快楽にふけった罪を告白にきた彼に対し,教皇ウルバヌス4世は〈このつえに花が咲くなら罪は宥(ゆる)されよう〉と答えてすげなく追い返したが,ほんとうにつえに花が咲いてしまい,あわててタンホイザーを探しまわったという。ギリシアの悲恋物語では,恋人デモフォンDēmophōnの帰還を待たずに焦がれ死にしたフュリスPhyllisのために,デモフォンがアーモンドの樹の洞に作られた墓に回向したところ,花が一斉に咲きだした奇跡が語られ,爾来アーモンドは不滅の愛の象徴ともなった。花言葉は〈純潔〉〈豊穣〉,フランスでは〈幸福な結婚〉。…

※「デモフォン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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