日本大百科全書(ニッポニカ) 「デモフォン」の意味・わかりやすい解説
デモフォン
でもふぉん
Demophon
ギリシア神話のエレウシス王ケレオスの子。娘のペルセフォネを冥界(めいかい)の王ハデスに奪われた女神デメテルは、ハデスに助力したゼウスを恨んでオリンポスを去った。そして老婆に身をやつしてケレオスの館(やかた)へやってきた彼女は、ケレオスの妻メタネイラから、生まれてまもないデモフォンの養育を頼まれ、乳母(うば)となる。デメテルは心を込めてデモフォンを育て、その死すべき部分を焼き捨て、ひたすら不死にしようとアンブロシアを彼の肌に塗り、夜ごと火中に投げ込んだ。デモフォンの神にも似た成長ぶりをいぶかったメタネイラは、ある夜ひそかにのぞいて見るが、火炎に包まれるわが子を見て大声をあげてしまう。怒ったデメテルはデモフォンを火中から取り出し、床へ放り投げると不死の身になれたはずなのにといって立ち去る。一説によれば、母親の不心得からデモフォンはそのまま炎に焼かれてしまったともいう。
[伊藤照夫]