化学辞典 第2版 「トランス効果」の解説
トランス効果
トランスコウカ
trans effect
錯体の配位子置換反応において,ある配位子が,そのトランス位置にある配位子を置換されやすくする(反応活性にする)効果をいう.
白金平面型錯体の反応において,トランス効果は Cl- のほうがNH3より大きいことがわかる.配位子のトランス効果は次の順に減少する.
CN-~C2H4~CO > NO > SC(NH2)2~R2S~PR3~
SO3H-~NO2-~I-~NCS- > Br- > Cl- >
ピリジン > NH3 > OH- > H2O
この効果に対する理論的解明はまだ十分とはいえないが,配位子の静電的分極能の差を重視するA.A. Grinbergの理論(図(a))と,π結合生成が求核的攻撃の容易さを誘起するとするJ. Chatt,L.E. Orgelの理論(図(b))とが代表的である.しかし,五配位中間体をとるので,現在ではこれらに修正が加えられている.いずれにせよ,配位子が強いσ供与性か,強いπ受容性をもつ場合に大きなトランス効果を示すことから,二つの型のいずれか,またはその相乗作用がトランス位を活性化すると考えられる.しかし,PtⅡ錯体を除く平面型錯体の配位子置換反応は,この効果だけでは説明できないものも多い.八面体錯体のトランス効果も知られているが,例が限られる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報