π結合(読み)パイケツゴウ(その他表記)π bond

デジタル大辞泉 「π結合」の意味・読み・例文・類語

パイ‐けつごう〔‐ケツガフ〕【π結合/パイ結合】

共有結合うち電子対が原子間の両側に存在する形式結合。→σシグマ結合

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精選版 日本国語大辞典 「π結合」の意味・読み・例文・類語

パイ‐けつごう‥ケツガフ【π結合】

  1. 〘 名詞 〙 共有結合のうち、電子対が原子間の両側に存在する形式の結合。

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改訂新版 世界大百科事典 「π結合」の意味・わかりやすい解説

結合 (パイけつごう)
π bond

互いに結合する二つの原子を結ぶ方向にのびた価電子軌道の重なりによって形成される共有結合がσ結合と呼ばれるのに対して,二つの原子を結ぶ方向と直交する方向にのびた価電子軌道の重なりによって形成される共有結合をπ結合と呼ぶ。エチレンCH2=CH2炭素原子はsp2混成軌道を用いて,2個の水素原子,1個の炭素原子とを合わせて3本のσ結合をつくり,残りの一つの価電子が2pz軌道に入っている。この際,隣り合う炭素原子の2pz軌道どうしの重なりでπ結合がつくられる。アセチレンCH≡CHでは,sp混成軌道を用いたσ結合と2py,2pz軌道を用いた2本のπ結合が炭素原子間につくられている。ベンゼンC6H6では,6員環炭素骨格はsp2混成軌道を用いたσ結合でつくられ,さらにその3ヵ所にπ結合が存在することになる。したがって,形式的にはあるいはのように書けるはずだが,実際には6個のC-C結合は全く等価である。これは,二つの構造の間の量子力学的共鳴によってπ結合の非局在化が生じたほうがエネルギー的に安定なためである。一般にπ結合が一つおきに並んだ系では,π結合の非局在化が多かれ少なかれ生じている。このようなとき,分子がπ電子共役系をもつという。分子軌道法観点からは,ベンゼンを例にとると,6個の炭素原子の2pz軌道から形成されるπ軌道に6個のπ電子が入っていると考える。σ結合に比較して,π結合の電子は一般に低いエネルギーで励起あるいは放出される。とくにπ電子共役系が大きくなると,このような過程が低いエネルギーで起きる。紫外・可視領域の光の吸収は,たいていπ結合に関係している。
化学結合
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化学辞典 第2版 「π結合」の解説

π結合
パイケツゴウ
π bond

二原子分子(N2,O2,NOなど)や直線分子(アセチレンなど)の二重結合三重結合では,結合軸の方向の角運動量成分が0,1,2,…であるような軌道に電子が配置される.これらの軌道を0,1,2の順にσ,π,δ軌道とよぶが,角運動量成分が1以上の軌道は縮退していて,π軌道の場合,π 軌道と π 軌道が存在する.これらの軌道に電子が入って結合に寄与するとき,この結合をπ結合という.一般に,π結合は対応するσ結合より結合力は弱い.平面分子(エテン,ベンゼンなど)の二重結合では,sp2混成の結果,σ軌道とともに ππ のかわりにそれらの線形結合に相当する πx 軌道が生じる.この場合,電子の結合軸方向の角運動量成分は0になるが,エネルギー的には直線分子の π± 軌道と同様に,πx 軌道はσ軌道より不安定である.これらの軌道に電子が配置されてσ結合およびπ結合が形成される.この場合のπ電子雲の断面は,結合軸を含む平面の上下に唖(あ)鈴型に分布した形をとる.そのために結合軸の回転は自由にできない.これがシス-トランス異性などの幾何異性現象を生じる原因になる.π結合を有する分子の化学的性質の多くはπ電子によって決定される.たとえば,π電子を有する化合物は一般に反応性が高く,π結合の部分で付加反応を起こしやすい.この意味で,π結合を含む化合物は不飽和化合物とよばれる.なお,三重結合は1個のσ結合のほかに2個のπ結合をもっている.たとえば,アセチレンのC≡C三重結合は,図のようにエテンのC=C二重結合にもう1個のπ結合が追加されている.また,ベンゼンのような環化合物ではπ結合は2原子間にとどまらず,共鳴によってπ軌道が環全体に広がり,一つの大きなπ結合をつくる.[別用語参照]共役二重結合

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「π結合」の意味・わかりやすい解説

π結合
ぱいけつごう
π-bond

π電子によって形成される化学結合。一重結合(単結合)はσ結合(シグマけつごう)のみであるのに対し、多重結合はσ結合とともにπ結合が加わったものである。π電子は結合軸に対して直角方向のp電子であり、結合軸からみて上部と下部とで電子雲(電子は原子核の周りに雲のように広がっている。このようすを電子雲とよんでいる。古典的には電子は1、2、3……個と数えているが、量子化学では各電子は雲の形で表す)の重なりをもつ。これがπ結合軌道であり、この軌道を利用した結合をπ結合という。π結合は結合軸をx軸にとるとき、pypypzpz軌道の間に生ずる。共役二重結合の場合は、π結合が非局在化する。

[下沢 隆]

『斎藤勝裕著『絶対わかる化学結合』(2003・講談社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「π結合」の意味・わかりやすい解説

π結合
パイけつごう
π-bond

σ 結合に対する語。化学結合のうち共有結合を大きく分類すると,結合軸に対して軸対称性 (軸を回転軸とする回転対称) をもつ σ 結合と,軸対称性をもたない π 結合に分けられる。 π 結合は,結合軸に対して直交し,かつ互いに平行な2個の p 軌道や d 軌道の重なりによって生じる。一般に二重結合は1個の σ 結合と1個の π 結合よりできており,しかも π 結合は σ 結合に比べて弱いことが知られている。二重結合をもつ化合物が一般に種々の化学変化を起しやすいのは,この弱く,切れやすい π 結合によるものである。 (→軌道 )

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世界大百科事典(旧版)内のπ結合の言及

【化学結合】より

…最後に残ったp軌道は六角形の面を節面として図4のように配列され,両隣のp軌道と結合をつくる。このように節面のある結合はπ結合と呼ばれ,そこにいる電子をπ電子と呼ぶ。p軌道には1個の電子しかないので,結合が電子対から成るという考え方では図4のエチレンの場合はよいがベンゼンのように両隣がある場合には考えにくい。…

※「π結合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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