(1)「ある」といわれるものすべてを総括する、もっとも一般的な類としての「存在者」on(ギリシア語)、ens(ラテン語)、das Seiende(ドイツ語)を意味する。存在者は、実在者だけではなく、非実在者をも含む。非実在者、たとえば天馬も、それが「天馬であるもの」として思考される限りにおいては、「一種のあるもの(仮想物)」だからである。また、「あらぬもの(非存在者)」も、ある意味では存在者の一種である。なぜなら、「あらぬもの」も、「あらぬもの」である限りにおいて思考され、また(そういうものとして)あるからである。この意味において、存在者はいっさいのものを総括する類である。アリストテレスは、すべてのものに関する一つの知恵としての哲学を「存在者である限りにおける存在者についての原理、原因の知識」と規定した。(2)より厳密な意味では、存在は存在者における「存在の働き」einai(ギリシア語)、esse(ラテン語)、das Sein(ドイツ語)を意味する。すべて存在するものは「或(あ)る何か」であり、「或る何か」である限りにおいて、われわれに知られる。存在者におけるこの「或る何か」は、それぞれの存在者に固有なものであり、存在者の属する類と種に従って特殊化される。この「何か」の特殊性によって、存在者はそれとは異なる他の存在者から区別される(人間にとっては人間、鉄にとっては鉄が、この「何か」である)。「何か」は、そのものの「何であるか」を規定するもの、そのものの「存在本質」ūsiā(ギリシア語)、essentia(ラテン語)、das Wesen(ドイツ語)である。
これに反して、すべての存在者に述語される「ある」という述語は、すべての存在者に等しく述語される共通なものである。すべての存在本質がある一定の類のうちに限定されるのに対して、「ある」という述語は類という限定を越える。したがって、これは厳密な意味では類ではなく、類を越えるもの、「超越者」である。すべての存在者に共通な、この「ある」ということばの意味する「存在の働き」が「存在」である。すべての存在者は、特殊な存在本質と共通な存在の働きから成り立つ。存在者に向かうわれわれの認識は、それぞれの存在者について、その「何であるか」を問うとき、まず特殊な存在本質に向けられる。そして、その限りにおいて、われわれの知識は特殊化され、特殊科学の知識が生ずる。存在者が存在者である限りにおいてもつ、共通な「存在」は覆われ、「存在」への問いは忘れられる。特殊な存在者への問いにおいては忘れられている、この存在の共通の根としての存在そのものへの問いとして、哲学の問いが生ずるのである。
[加藤信朗]
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