日本大百科全書(ニッポニカ) 「バット染料」の意味・わかりやすい解説
バット染料
ばっとせんりょう
vat dyes
建染(たてぞ)め染料ともいう。水に不溶性であるが、水酸化ナトリウム、ハイドロサルファイト(亜二チオン酸ナトリウム)により還元すると水溶性となり繊維に染着しうる染料である。染色後、空気中または酸化剤(過酸化水素、二クロム酸ナトリウム)で酸化して元の不溶性染料に戻り、堅牢(けんろう)な染色物を与える。還元操作を建化(けんか)vatting、還元浴を建浴(たてよく)またはバット、還元体をロイコ体という。
バット染料は化学構造により、インジゴ・チオインジゴ系、アントラキノン系、フタロシアニン系に分類される。アントラキノン系(縮合多環キノン系を含む)がもっとも多い。ロイコ体の硫酸エステルは水溶性で繊維に染色したのち、酸化により不溶性染料を再生しうる。これらを可溶性バット染料という。優秀な堅牢度を有するバット染料が「インダンスレン染料」(日本での一般名はスレン染料という)である。バット染料の還元にはアルカリを用いるので、繊維としては木綿が多く用いられる。羊毛には可溶性バット染料や、弱アルカリ、低温で建浴を与える染料が用いられる。
[飛田満彦]