日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホンブルク公子」の意味・わかりやすい解説
ホンブルク公子
ほんぶるくこうし
Prinz Friedrich von Homburg
ドイツの劇作家クライストの最後の五幕戯曲。1811年成立、21年ウィーンで初演。1675年のフェールベリーンの会戦に取材。騎兵隊指揮官ホンブルク公子はブランデンブルク選帝侯から息子同然に遇され、侯の姪(めい)に思いを寄せている。出陣前夜、夢うつつのうちに己の武運と愛の成就を予見した彼は、独断で攻撃を敢行し敵を撃破するが、軍律違反の罪で死刑を言い渡される。処刑場の墓穴を見て勇士は死の恐怖に襲われ、ひたすら助命を嘆願する。だが刑の当・不当を本人の判断にゆだねるという侯の親書に接して、彼は率然として己の非を悟り、侯の信頼にこたえて死につこうとする。そのとき恩赦が下り、開幕冒頭の幸福の予見がここに実現する。紀律と自由、法と恣意(しい)、夢と現実の葛藤(かっとう)ないし矛盾は、真率な人間性と晴れやかな遊戯性のうちに解消をみる。写実性と浪漫(ろうまん)性が適度に融合し、円環的に完結するこの救済劇は、ヘンツェによってオペラ化もされている。
[中村志朗]
『羽鳥重雄訳『公子ホムブルク』(『クライスト名作集』所収・1972・白水社)』