行政権によって、裁判で確定した刑罰の内容を変更させたり、消滅させたりする制度。明治憲法下では天皇の大権事項とされていたが、現憲法下では国事行為として内閣の助言と承認により天皇が認証する。恩赦法は政令恩赦と個別恩赦の二つを規定。政令恩赦は罪や刑の種類、基準日などを決め、該当する全員に効力が一律に生じる。有罪判決が無効になる大赦、刑を軽くする減刑、資格制限を回復する復権がある。個別恩赦は可否を個別に中央更生保護審査会が審査。国の慶弔に関係なく行われる常時恩赦と、内閣が一定の基準を設け、期間を区切る特別基準恩赦がある。
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司法手続によることなく、国家の具体的な刑罰権の全部または一部を消滅させること。大日本帝国憲法のもとで恩赦は天皇大権に属していたが、現行憲法は、内閣が決定し、天皇が認証することにした(憲法73条7号、7条6号)。恩赦の種類・内容については、1947年の恩赦法(昭和22年法律第20号)に定められている。同法によれば、恩赦には、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除、および復権の5種がある。
[名和鐵郎]
政令により特定された犯罪につき刑罰権を一般的に消滅させることであり、対象が特定人に限られることはない。このなかにも、(1)有罪の言渡しを受けた者につきその言渡しの効力を消滅させる場合と、(2)有罪の言渡しを受けない者につき公訴権を消滅させる場合とがある(恩赦法3条)。
[名和鐵郎]
有罪の言渡しを受けた特定の者に対して、有罪の言渡しの効力を失わせるものである。大赦、特赦のいずれの場合にも、有罪言渡しの効力が失われれば、受刑者は釈放され、執行猶予中の者は猶予期間満了と同じ効果を得ることとなる。
[名和鐵郎]
刑の言渡しを受けた者に対し、政令により罪または刑の種類を定めて一般的に刑を減軽すること(一般減刑)、および刑の言渡しを受けた特定の者に対し刑を減軽するか、刑の執行を減軽すること(特別減刑)をいう。ただ、刑の執行猶予期間中の者については、刑を減軽するにすぎない場合と、この減軽に加えて執行猶予期間をも短縮することもできる。
[名和鐵郎]
刑の言渡しを受けた特定の者に対しこれを行う。ただし、刑の執行猶予期間中の者に対してはこれを行うことはできない。刑を言い渡さない刑の免除とは異なる。なお、恩赦の一種として行われるほかに、刑法上刑の時効が完成したときその執行が免除される(刑法31条)。
[名和鐵郎]
一般復権と特別復権がある。一般復権とは、有罪の言渡しを受け法令により一定の資格を喪失したり、これを停止された者に対し、政令で要件を定めて一般的に資格を回復することをいう。特別復権とは、特定の者に対して個別的に復権を認める場合である。なお、恩赦の一種としての復権のほかに、現行刑法にも法律上の復権がある。
恩赦は、法の画一的な適用に伴う弊害の除去、誤判の救済、刑事政策的な必要性などに関し一定の機能を果たしうるが、行政府により司法判断を修正するものであるから、政治的に濫用される危険性があることに留意しなければならない。
[名和鐵郎]
国家が自ら刑罰権やその効果を否定し消滅せしめる行為。英語でpardonという。主権者の〈慈悲〉を源泉として国家的慶弔を事由に行われ,長く合理的規整の外に置かれていた。国家元首による恩赦が乱用されたため,カントらの啓蒙思想家に制度そのものが批判され,フランス革命期には憲法制定議会によって廃止されたこともあった。しかし,刑事司法の画一的形式性の緩和,誤判の救済などの見地において有意義なので,現在でも各国でひろく認められている。近代日本において第2次大戦前は天皇大権の下にあった恩赦は,戦後は憲法の規定(73条,7条)の下に内閣が決定する。その内容は恩赦法(1947公布)に定められ,大赦,特赦,減刑,刑の執行免除,復権からなる。これは方式の点から,政令恩赦(大赦,一般減刑,一般復権)と,個別恩赦(特赦,刑の執行免除,特別減刑,特別復権)とに区分される。両者の最も重大な相違は,手続上個別恩赦には中央更生保護審査会(更生保護)という審議機関があるのに対し,政令恩赦にはそのような審議機関がなく,決定が時の内閣の専断にゆだねられる点にある。
戦前の恩赦を歴史的にみると,1868-69年(明治1-2)にかけて集中的に大赦,特赦,減刑が行われている。明治天皇の元服,即位,改元を事由とするこれらの恩赦は,江戸幕府から明治政府への権力の交代における正統性の明示にほかならない。この後は,1889年憲法発布と1945年大戦終局という明治国家の起点と終点とを含み,天皇の代替り(明治天皇大喪,大正天皇大喪)を加えて,大赦,特赦が4回行われている。また帝国拡張にともない,1897年英照皇太后大喪に際し台湾大赦,1910年日韓併合に際し朝鮮大赦,1920年李垠・方子成婚に際し朝鮮減刑というように,植民地に特定した恩赦が行われた。現行憲法の下では,1946年憲法公布,52年講和条約発効,56年国連加盟と国際社会への復帰を指標に,占領目的の法律関係の処理を実質的内容として,大赦,特赦が施行された。したがって以後は,59年皇太子成婚,68年明治百年記念,72年沖縄返還のいずれの恩赦も復権にとどまり,大赦,特赦は特に事由なしとして行われていない。その他の恩赦の一般的事例は,現在では選挙犯罪における復権等に最もよく見られるといえよう。
→赦
執筆者:御厨 貴
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(南 文枝 ライター/2019年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…日本古代の赦は,すでに大化前代に見られるが,その事例の多く存するのは,律令法が受容された奈良朝以降である。日本の律令に現れた恩赦には,赦,降,勅放の3種がある。赦は恩赦,大赦ともいい,特定個人を対象とせず,広く天下一般に布告するもので,犯罪者の罪を全免する。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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