大部隊(通常,軍以上)相互の戦闘をいう。初期の旧日本陸軍の教書では,敵・味方両軍が戦場に相会遭(かいそう)して戦うことを会戦といい,別に主力相互の戦いを全戦(そうたたかい)と呼んでいた。1885年陸軍大学校の教官として招聘(しようへい)されたドイツの参謀将校K.W.J.メッケル少佐著の陸軍大学校教本《戦時帥兵術》(1886)では,〈“戦闘”とは一般に戦いの総称であるが,慣用上“戦闘Gefecht”と言えば,小部隊の戦いを意味し,大きい部隊の戦いを“会戦Schlacht”と言う。“決戦会戦Entscheidungs Schlacht”とは,戦役の局を結ぶため,彼我の本軍相衝突することを言う〉となっていた。これを受けて,たとえば日露戦争(1904-05)では,日本軍の主力を挙げての戦闘を遼陽会戦,奉天会戦などと呼んだ。その後,陸軍大学校で1913年出版された《兵語の解》では,会戦を〈両軍主力の戦闘〉と定義し,10年後の改訂では〈決戦的効果をもたらすべき兵団主力の戦闘及びこれが前後における行動の総称〉となり,さらに1930年には〈敵を圧倒殲滅(せんめつ)する目的をもつて,通常,軍以上の大兵団をもつて行なう戦闘,及びその前後における機動を総称する〉と改訂された。
1930年の改訂は,当時の日本陸軍の,徹底した攻勢賞揚による殲滅戦思想の流れからきたもので,やや偏った定義となっている。一般概念としては〈大部隊相互の戦闘〉と包括的な意味に把握するのが妥当であろう。会戦の目的が,必ずしも敵を圧倒殲滅するとは限らず,単なる持久であったり,敵を抑留する(一つの正面にとどめ,他の正面に転用させないこと)ためであったりすることがあるからである。科学技術のすすんだ現代の戦争では,戦闘の様相が複雑・立体化し,かつ,集中,機動,戦闘のような段階が明確に区分しえなくなったので,会戦の用語は使用されなくなった。
会戦を準備するため〈会戦指導に関する方策〉に基づいて,まず戦闘序列を定め,部隊を所定の地域に集中させる。戦闘序列order of battleは,一般的には部隊を会戦の目的に適合するように編組することをいうが,旧日本軍では,戦時または事変に際して,天皇の大権に基づいて発令される作戦軍の編組に限って戦闘序列といい,これによって指導統率の関係を律した。発令は大本営命令(大陸令)によった。それ以外の部隊の臨時の組成,たとえばある作戦に適合するように部隊を一時的に編成することを軍隊区分といった。軍隊区分は,その必要がなくなれば,速やかにもとの編成にかえさなくてはならない。
会戦は通常,戦略展開,補給・補充・衛生等の兵站(へいたん)の諸準備,機動,戦闘,追撃(または退却)の段階に区分したが,明確に分けられない場合もあった。
執筆者:井本 熊男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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