改訂新版 世界大百科事典 「ボナベントゥラの夜警」の意味・わかりやすい解説
ボナベントゥラの夜警 (ボナベントゥラのやけい)
Nachtwachen von Bonaventura
1804年に刊行されたドイツのグロテスク・ロマン主義の代表作。作者については古来異説が多く,無名の作家ウェツェルFriedrich Gottlob Wetzel(1779-1819)の作とする説が有力だったが,近年異論が出ている。悪魔を代父としてジプシー女の母から生まれた主人公が,社会のアウトサイダーたる夜警の立場からこの世の虚妄を物語るこの小説は,無限への憧憬を主流とするドイツ・ロマン派の中にあって,〈負〉への転回を核心とする破壊的ニヒリズムのために孤立していた。その結果長い間軽視されていたが,今日では,不協和のリズムを作品構成の原理とする虚無との遊戯の〈アラベスク様式〉として再評価されている。とくにW.カイザーの《グロテスクなもの》やバフチンの《フランソア・ラブレーの作品と中世・ルネサンスの民衆文化》などによって,グロテスク文学の代表作と位置づけられて,〈人間とは無縁の世界の恐怖〉の形象化が注目されている。
執筆者:平井 正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報