バフチン(読み)ばふちん(英語表記)Михаил Михайлович Бахтин/Mihail Mihaylovich Bahtin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バフチン」の意味・わかりやすい解説

バフチン
ばふちん
Михаил Михайлович Бахтин/Mihail Mihaylovich Bahtin
(1895―1975)

ソ連文芸学者、美学者。1920年代初頭より、文学・美学関係の著作を数多くものしていたが、当時公刊されたのは、ドストエフスキーの作品がもつポリフォニー的性格を解明した『ドストエフスキーの創作の諸問題』(1929)と、数編の小論のみである。その他の著作は、おもに政治的理由のために出版されず、前記著書の改訂版『ドストエフスキーの詩学の諸問題』が出た1963年以降になってようやく日の目をみている。独自の対話論を根底に据え、文芸学、文学史、芸術史、民俗学、言語学、心理学、歴史学、思想史等々のきわめて幅広い知識を駆使したその仕事は、旧ソ連諸国内のみならず世界的にもひときわ高い評価を受けている。主著としては、上述のドストエフスキー論のほか、ラブレーに対する狭隘(きょうあい)な近代化解釈を「民衆の笑い」論、カーニバル論を軸にして打ち砕いた『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネッサンスの民衆文化』(1965)があげられる。また、小説のことば論関係の著作その他を集めた『文学と美学の諸問題』(1975)と『言語作品の美学』(1979)が、死後に出版されている。

 さらに、今日では、『フロイト主義』(1927)や『マルクス主義言語哲学』(1929)をはじめとするボロシノフ名義の著作、『文学研究における形式的方法』(1928)といったメドベジェフ名義の著作も、事実上バフチンのものである、との説が有力になっている。この説に従う立場をとるならば、バフチンは「マルクス主義的記号学」の主唱者でもあり、ロシア・フォルマリズムを内在的に批判した代表的人物でもあった、ということになる。

桑野 隆 2018年7月20日]

『新谷敬三郎訳『ドストエフスキイ論――創作方法の諸問題』(1968・冬樹社)』『川端香男里訳『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネッサンスの民衆文化』(1974・せりか書房)』『桑野隆訳『マルクス主義と言語哲学』(1976/改訳版・1989・未来社)』『伊東一郎他訳『ミハイル・バフチン著作集』全8巻(1979~1988・新時代社)』『桑野隆著『バフチン――〈対話〉そして〈解放の笑い〉』(1987/新版・2002・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バフチン」の意味・わかりやすい解説

バフチン
Bakhtin, Mikhail

[生]1895.11.17. オリョール
[没]1975.3.7. モスクワ
ロシアの文芸学者。フルネーム Mikhail Mikhailovich Bakhtin。ペトログラード大学文学部卒業。『ドストエフスキーの創作の諸問題』Problemy tvorchestva Dostoevskogo(1929)でフョードル・ミハイロビッチ・ドストエフスキーの小説の「多声性」を分析し,文学作品の構造的研究に清新な視点を導入した。大著『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネッサンスの民衆文化』Tvorchestvo Fransua Rable i narodnaya kul'tura srednevekov'ya i Renessansa(1965)では民衆の笑いの文化を公式の硬直した文化に対比させるなど,骨太の雄大な文明史的視点を提示した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報