改訂新版 世界大百科事典 「マウリド」の意味・わかりやすい解説
マウリド
mawlid
イスラムにおける預言者や聖者の生誕祭。マウリドはコーランにもハディースにも準拠していないが,(1)預言者ムハンマドのマウリド,(2)シーア派のマウリド,(3)スンナ派神秘主義聖者のマウリド,の三つのタイプがある。ワッハーブ派は,これらのマウリドが人間の神格化を促すものとして軽視ないしは違法としているが,他のイスラム世界では盛大に祝われている。エジプトでは(1)の際に花嫁やラクダ,馬などの動物をかたどった砂糖菓子がつくられ,祭りが終わるとそれらを食べるという伝統的な風習がある。またこの際にムハンマドの美徳や奇跡をたたえる詩が長々と吟じられ,ムハンマドの生涯が鳴物入りで多少粉飾した形で朗詠される。(2)の場合はアリー以下の歴代のイマームの生誕祭を盛大に祝うことになるが,シーア派の神秘主義聖者もまたアリーの子孫に当たるとされ,その生誕祭が祝われる。(3)の場合はそれらが地方最大の縁日となり,近郊の農村から人を集めてにぎわい,商売も大繁盛する。そしてこれらのマウリドの期日は,農繁期を避けて人為的に決定され,しかもヒジュラ暦によらず地方の農事暦によって年に2回行われることも珍しくない。
執筆者:飯森 嘉助
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報