改訂新版 世界大百科事典 「マラブー」の意味・わかりやすい解説
マラブー
marabout
アラビア語のムラービトmurābiṭに由来する言葉で,マグリブにおいてリバートに住む修道士を指す。8世紀末から,モナスティールやスースなどチュニジアの海岸地域に建設され始めたリバートは,キリスト教徒に対するジハード(聖戦)のための軍事的要塞であるとともに,信仰と布教の拠点でもあった。イスラムの浸透に伴い,11世紀ころになると,リバートは内陸部にも建てられるようになったが,その役割は軍事的というよりも,宗教的性格を強めていった。西アフリカに興ったムラービト朝は,そのようなリバートの修道士が建てた王朝である。13~14世紀ころからのイスラム神秘主義の発展に伴い,リバートはスーフィーの修行場であるザーウィヤを意味するようになり,マラブーは聖者を指すようになった。このようにしてマラブーは聖戦の兵士としての軍事的性格を喪失した。それとともに,マラブーの名前にシディsidiあるいはムーレイmoulay(ともに〈私の主人〉の意でアラビア語のsayyidī,mawlāyからきた語)という称号が用いられ始めた。また現在ではマラブーは聖者が埋葬されているリバートまたはザーウィヤを指す場合にも使用されている。
執筆者:私市 正年
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報