スーフィー(英語表記)ṣūfī

デジタル大辞泉 「スーフィー」の意味・読み・例文・類語

スーフィー(〈アラビア〉ṣūfī)

イスラム教の神秘家のこと。元来は、羊毛(スーフ)の粗衣をまとって懺悔の表徴とし、苦行に励む禁欲家をさした。→スーフィズム

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改訂新版 世界大百科事典 「スーフィー」の意味・わかりやすい解説

スーフィー
ṣūfī

イスラム世界における神秘主義者,神秘家。アラビア語で羊毛を意味するスーフṣūfの語に由来し,羊毛でできた粗衣をまとう者がスーフィーと呼ばれた。スンナ派イスラムの律法主義形式主義への批判から,宗教的により敬虔な生活を送ろうとした人々がスーフィーであり,イスラム神秘主義思想担い手となった。ほぼ同じ意味でファキールの語が用いられることもあるし,イラントルコではデルウィーシュの語が用いられることもある。初期のスーフィーの代表的人物は,8世紀後半の女性ラービアで,神に対する畏怖の念を強くもつハサン・アルバスリー禁欲主義に対して,神への神秘的愛を強調した。スーフィーの活動の中心地も8世紀の後半にはイラククーファであったが,10世紀ころまでには全イラクに広がっていき,以後,全イスラム世界に拡大していくこととなった。スーフィーたちの社会的出自も,当初はイスラム本来の担い手であるウラマー自身であったが,9世紀ころから都市の中・下層階級の間に拡大していった。

 スーフィーとスンナ派ウラマーとの関係は,922年に神と自己とを同一視した罪に問われて処刑されたハッラージュの事件にみられるように,スンナ派ウラマーはスーフィーたちの活動を敵視しがちであった。両者の対立はクシャイリーal-Qushayrī(986-1074)やガザーリーの努力によって克服され,スンナ派イスラムとスーフィー思想との融和が実現した。このような現象とともに注意されるべきは,スーフィーの活動の集団化の現象である。初期のスーフィーは個人の活動として宗教活動に従事していたが,やがて集団的活動をするようになった。スーフィーたちは修道場で集団生活を行うのであるが,この修道場がリバートribāṭとかハーンカーkhānqāとかザーウィヤzāwiyaと呼ばれているものである。この修道場で神との合一という目標を追求するが,その際に行われる宗教的勤行がジクルとかサマーの名で呼ばれているものである。このようにスーフィーたちが集団生活をするのは,神との合一という究極の目標がスーフィーの個人的努力のみによっては達成されえないと考えられていることによる。この目標の達成のためには師の指導が不可欠と考えられた。そして導師(シャイフ,ピールpīrと呼ばれる)を中心とするスーフィーのグループがつくられるようになった。このような初期のグループとしては,有名なものにイラク派と呼ばれるジュナイドに由来するグループと,ホラーサーン派と呼ばれるビスターミーのグループがある。このような初期のスーフィーのゆるやかな結合のグループは,12~13世紀ころからタリーカ(神秘主義教団)に代わられていった。
イスラム神秘主義
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百科事典マイペディア 「スーフィー」の意味・わかりやすい解説

スーフィー

イスラムの神秘家。羊毛(スーフ)の粗衣をまとったのでこの名があるという。8世紀後半からスンナ派の律法主義・形式主義に対する反動として出現し,敬虔な信仰生活を重視して,神との合一を目指した。史上有名なスーフィーは,ラービア,ハッラージュ,ガザーリー,ジュナイド,ビスターミーらで,のちには集団化,教団化した。→イスラム神秘主義
→関連項目カッワーリー

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スーフィー」の意味・わかりやすい解説

スーフィー
すーふぃー
Abū-al-Husain ‘Abd al-Rahmān ibn ‘Umar al-Rāzī al-Sūfī
(903―986)

イスラム教徒最大の天文学者の一人。テヘランの近くに生まれる。ブワイフ朝の支配者アブド・ウッ・ダウラAbud al-Dawla(936―983)の友人であり、教師であった。恒星観測業績を残し、自らの天文観測に基づいた目録『図解恒星書』Kitāb al-kawākib al-thābita al-musawwarは彼の主著で、アラビア独自の星名が多数収録されたイスラム天文学を代表する著作の一つである。この著はヨーロッパにも伝えられ、今日の星名にも影響を与えている。

[平田 寛]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「スーフィー」の解説

スーフィー
ṣūfī

イスラームにおける神秘主義者。スーフ(羊毛)でできた粗衣をまとっていたことに由来する言葉。神への愛を説き,究極の目的として神との合一を主張した。その思想はスーフィズムとして確立し,イスラームの拡大,発展に大きな役割を果たした。

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367日誕生日大事典 「スーフィー」の解説

スーフィー

生年月日:903年12月8日
アラビアの天文学者,占星術者
986年没

出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スーフィー」の意味・わかりやすい解説

スーフィー

「スーフィズム」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のスーフィーの言及

【イスラム音楽】より

…ところがイスラム教徒の中にも,もっと積極的に音楽や舞踊そのものを典礼の中にとり入れ,これに陶酔することによってアッラーへの帰一を達成しようと考える一派がある。スーフィーと呼ばれる神秘主義者がそれで,11世紀の神学者ガザーリーの音楽擁護論がその隆盛の誘因となったといわれるが,いわゆるスーフィー教団では修道者(デルウィーシュ)たちが,ジクル(アッラーの名を繰り返し称えること)やサマー(音に聴き入ること)などの儀式において,ひたすら歌い踊ることによって神秘的体験を得て,魂を浄化し,信仰を深める。音楽的見地から重要なスーフィーの伝統として,今日トルコを中心に伝承されているメウレウィー教団の典礼を挙げることができる。…

【インド】より

…外来の宗教の中で,絶対唯一神アッラーを崇拝する一神教であり,カースト制度を否認し,偶像崇拝を排するイスラムほどインドの社会や思想などに,大きな影響を与えたものはない。またイスラムについてみると,正統派ウラマーよりも,神と人間の一体性を説き,異端視されていたイスラム神秘主義者スーフィーたちの方がはるかに広く深い影響を与えた。スーフィー教団としてはチシュティー教団,スフラワルディー教団,カーディリー教団,ナクシュバンディー教団という正規の四大教団のほかに,変則的な教団や未組織の教団などもある。…

【シャイフ】より

…このようにシャイフは小さな共同体の調停者ではあったが,何かあった時には,かなりの指導権をふるえる存在でもあった。 シャイフという称号は,尊敬を表す敬称としてウラマーやスーフィーにも与えられた。シャイフは決して制度的称号でも資格でもないので,ウラマーのうちだれがシャイフと呼ばれるかは,はっきりした基準があるわけではない。…

【スーダン】より

…またメロエは当時世界有数の鉄生産地であり,鉄の輸出で厚味を加えた国際交易を経済基盤にメロエ文化が栄え,その影響はサハラ以南のアフリカにまで深く浸透した。
[イスラム首長国の成立とスーフィー教団の活動]
 このメロエ王国は365年エチオピアのキリスト教王国アクスム王国に滅ぼされ,ヌビアはキリスト教王国時代に入る。7世紀半ばアラブに征服されたエジプトがイスラム時代に入ってからも,ヌビアは容易にはイスラム化せず,ヌビアのイスラム化が始まるのは,マムルーク朝(1250‐1517)のヌビア征服(14世紀初め)以後である。…

【タリーカ】より

…イスラム世界において,スーフィーと呼ばれる神秘家たちのつくった教団。タリーカのアラビア語の元来の意味は〈道〉のことであった。…

※「スーフィー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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