改訂新版 世界大百科事典 「ミトコンドリアイブ仮説」の意味・わかりやすい解説
ミトコンドリア・イブ仮説 (ミトコンドリアイブかせつ)
mitochondrial Eve hypothesis
現生人類の起源に関する学説。1987年にカリフォルニア大学バークレー校の研究者,アラン・ウィルソンとレベッカ・キャンは,世界中の人類集団から集めたミトコンドリアDNAの系統を解析し,全人類の母系の共通祖先は,約20万年前のサハラ以南のアフリカに存在したと発表した。この学説は,全人類のミトコンドリアDNAの系統をさかのぼるとアフリカに住んでいた女性にたどり着くことを示したものだったが,一般には全人類が一人のアフリカ人女性から誕生したと受け取られ,〈ミトコンドリア・イブ仮説〉として有名となった。ただし誤解を招く危険性から,専門家の間ではこの用語は用いられない。この学説の要点は,現生人類がアフリカで誕生したことと,その時代が従来考えられていた100万年以上も昔のことではなく,約20万年という人類の進化史から見れば比較的新しい時代だったことを示したことにある。その後の化石人類の研究や,他の遺伝子を用いた研究でも概ねこの2点は支持されており,現在では人類進化の定説として受け入れられている。
執筆者:篠田 謙一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報