改訂新版 世界大百科事典 「ヤガーばあさん」の意味・わかりやすい解説
ヤガーばあさん
Baba-yaga
スラブの昔話や民間信仰に登場する森に住む妖婆。文献では12世紀にまでさかのぼることができる。ルボーク(民衆版画)では豚にまたがる姿で描かれ,ロシアの民間歳時暦では他の妖怪とともに夏至の時期にキエフのはげ山に集まると伝承される。この妖婆のイメージは昔話の中で最も鮮明である。老婆の住む森の小屋は鶏の脚の上に立ち,周囲を人骨の柵が囲み,主人公の呼びかけで向きをかえ扉を開く。骨の一本足で盲目のヤガーばあさんは,主人公に助言や食料を与え,魔法の馬や糸玉の贈物をする援助者である。その反面,殺された大蛇の母親として主人公と戦う敵対者であり,子どもをさらって炉で焼いて食べ,臼に乗って空を飛び,ほうきでその跡を消す魔女でもあり,両義的な性格をもっている。起源に関しては,森の動物の主,加入儀礼の祭司,死の国への渡し守とする考えがあり,語源からはヒッタイトの葬礼の老婆と結びつく。また足に注目し,前身を蛇とする死の女神であるという説もある。
執筆者:坂内 徳明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報