改訂新版 世界大百科事典 「加入儀礼」の意味・わかりやすい解説
加入儀礼 (かにゅうぎれい)
initiation ceremony
入社式またはイニシエーション儀礼ともよばれる。男子結社や秘儀的集団に加入するために行われる通過儀礼のひとつであり,この儀礼を通過することによって,加入後に集団のさまざまな地位・権利・特権を獲得することができる。比較的小人数に対して同時に行われる場合が多く,秘儀性をともなうことが最も重要な特徴である。したがって,成年(人)式または成熟祝puberty ritualと加入儀礼とは区別する必要がある。前者は,人の一生における重要なできごととしての思春期を強調はするが,明確な社会集団への加入をもたらすことはない。家族のような比較的小さな社会単位のなかで,個人中心的に行われ,秘儀性をともなわないのがふつうである。したがって,成熟祝は誕生,婚姻,死亡などと結びついた儀礼と同様に,集団への所属権の変更よりも,むしろ個人の地位の変更を強調している。これに対し加入儀礼は,一定の間隔をおいて,複数の者に対して同時に行われる。この儀礼は思春期またはその前後の時期に行われることが多いので,成年式と区別しにくいこともあるが,儀礼をうけたものが明確な社会集団を構成するという点において,他のすべての通過儀礼と異なっている。
加入儀礼として最も典型的なのは,男子結社や秘儀集団に加入する場合にみられるものである。たとえば西アフリカのリベリア,シエラレオネ,ギニアにかけて住んでいるクペル族の〈ポロ結社〉と呼ばれる秘密結社の加入儀礼では,学齢期の少年の数が十分そろっていると考えられたときに,長老たちによって,ブッシュ・スクール(〈藪の中の学校〉の意でやはりポロと呼ばれる)が村から離れた場所につくられ,仮面をつけた男たちが,少年たちを連れていくために村に派遣される。ポロで少年たちの腹の上に鶏の血が入った袋が巻きつけられる。そして少年たちを布の上で胴上げし,ポロの柵内へ投げ入れるとき槍で突きさすまねをする。袋が破れて血が流れるが,これは少年たちが1度死んだということを象徴する。また少年たちに割礼と傷身がほどこされるが,体に刻まれた傷あとは,ワニの霊魂によって飲みこまれた時につけられたものとみなされる。この〈死と再生〉のテーマは,加入儀礼の最後に行われる吐き戻しの儀礼によって終了する。オーストラリア諸族のトーテム結社への加入儀礼は10歳から30歳まで続くが,儀礼の第1幕は,以前の環境すなわち女子どもの世界からの分離儀礼で,加入者は茂みや別小屋に閉じこもり,種々のタブーに服する。加入儀礼は1度ですっかり終わることもあり,段階的に終わることもあるが,一般に,分離,過渡,統合という通過儀礼の図式がみられることが多い。いずれにしても,加入儀礼は,加入候補者の心身に変革をおこし,彼が決して元の世界へ逆行しえないことを認識させる目的をもっている。
→成年式 →男子結社 →年齢階梯制 →秘密結社
執筆者:綾部 恒雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報