日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤヒヤー・ハッキー」の意味・わかりやすい解説
ヤヒヤー・ハッキー
やひやーはっきー
Yayā aqqī
(1905―1992)
エジプトの小説家。カイロ生まれ。法律を学んで外交畑に入るが、小説家のターヘル・ラーシーンの率いる「現代派」に属して早くから文学的才覚を現した。代表作は『ウンム・ハーシムの吊り灯籠(つりどうろう)』(1945)で、東洋と西洋の両文化の相克を、西洋で医学を学んだ一青年と、伝統を信仰の域にまで高めて墨守するエジプト庶民を対峙(たいじ)させ、硬質な作品に結晶させている。また、上エジプト滞在中の体験を基にして書かれた、彼自身のエジプト開眼ともいうべき『血と泥』(1945)、移り変わる農村の昨今を独特の完成した文体と鋭い感性によってつづった『サッハ・ナウム』(1959)も一読に値する。文芸批評家としても著名であり、多くの若い文学上の才能を発見し、文芸誌『マジャッラ』の編集主幹としても活躍した。『エジプト小説の黎明(れいめい)』(1960)は、文芸評論を一個の完成度の高い作品にまで高め、このジャンルでの先駆的書となったもの。
[奴田原睦明]