戸外用の灯火器。風から守るため,火炎部を囲う構造(火袋)をもつ。灯楼などとも書く。主として室内で用いる燭台,灯台,雪洞(ぼんぼり),行灯(あんどん),ランプ,また携帯用の龕灯(がんどう),提灯(ちようちん)などとは区別する。原形は,中国大陸から朝鮮半島を経て,仏教とともに伝来した。材質の違いから木灯籠,陶灯籠,金灯籠,石灯籠があり,形状の違いから台灯籠(置灯籠,立灯籠),釣灯籠がある。置灯籠を構成する基本的な部材は,下から基礎,竿,中台,火袋,笠,宝珠の6部材。釣灯籠はこのうち下の基礎,竿がなく,かわりに宝珠部分に釣手を,中台に脚を付ける。1基の灯籠中で,材質を違えた部材を組み合わせる例はほとんどない。石灯籠に火袋を木でこしらえたものを見るが,ほとんどが石の火袋が破損したのを後補したものである。中国には,黒竜江省寧安県の東京(とうけい)城趾に,渤海時代の石灯籠が現存する。日本の石灯籠とは火袋,笠,宝珠の部分で意匠が異なる(瓦葺き八角仏堂を模し,宝珠ではなく相輪(そうりん)を乗せる)が,基礎,竿,中台などの基本的な構成は変わらない。また朝鮮半島には,慶州を中心として数多くの統一新羅時代の石灯籠が残っている。部材の構成は日本と同じであるが,意匠の点で先行する。
(1)木灯籠 春日大社蔵の黒漆六角瑠璃釣灯籠(鎌倉時代)が最古のもの。木灯籠は風食,炎上など破損を受けやすく,遺品の例は少ない。
(2)陶灯籠 近世になり陶器製の灯籠が現れる。釉薬で彩色できる点が他と異なる。遺品は木よりも少なく,東京国立博物館蔵(江戸時代)のものが知られる。
(3)金灯籠 鉄製と金銅製がある。鋳金,鍛金,彫金など金属工芸技術が駆使され,細部にわたって装飾を施す。台灯籠では鉄製,金銅製相半ばするが,釣灯籠では鉄製が多い。なかでも春日大社回廊の釣灯籠は,多くが鉄製で1000基以上に及ぶ。石灯籠に比して金灯籠に台灯籠の遺品が少ないのは,金属が高価であること,鋳つぶして他に再利用できること,腐食に弱いことなどが理由であろう。金銅製台灯籠の最古の遺品は東大寺大仏殿前金銅八角灯籠(奈良時代)で,火袋に鋳出された音声菩薩が有名。鉄製としては,台灯籠では大阪府河内長野市の観心寺鉄灯籠(平安時代),釣灯籠では京都国立博物館蔵の鉄鍛造釣灯籠(鎌倉時代)などが秀品として知られる。
(4)石灯籠 灯籠といえばこの石灯籠を指すことが多く,台灯籠の大半が石灯籠である。元来は仏寺の堂前に献灯したものであり,平安時代以降,神社にも取り入れられた。台灯籠が本来の灯籠の形状であるが,時代が降るにつれ庭園の点景として用いられるようになり,さまざまに形を変えつつ今日に及んでいる。古くは堂前中央に1基を建てたものが,室町時代以降,1対,2対と数を増すようになり,ついには春日大社のようにおびただしい数(2000基以上)を献ずるようになる。平面形も,本来の八角形が時代が降るにつれ六角形,四角形,三角形,円形,自然石形などの異形が現れる。ほかの材質に比べ,風食・破損しにくいこと,石という材質が茶人に好まれたことが遺品の多い理由であろう。発掘調査により,飛鳥寺跡,山田寺跡の,いずれも金堂跡南面で石灯籠基礎が発見されており,仏教伝来とともに灯火を献ずる慣習も伝来したことが知られる。興福寺五重塔前には自然石に八弁の蓮華紋を刻した基礎(奈良時代)が残っている。上部を備えたものでは,当麻寺金堂前石灯籠(奈良時代),春日大社柚木型石灯籠(平安時代),平等院鳳凰堂前石灯籠(平安時代),東大寺法華堂前石灯籠(鎌倉時代)などが知られる。石灯籠は,後世に派出したさまざまな形式を分類して当麻寺形,般若寺形,春日形,三月堂形,西円堂形など社寺名,堂名などの所在地名で分類したもの,庭園鑑賞用にデザインされたものを利久形,織部形,遠州形,珠光形などのように茶人の名で分類したもの,あるいは雪見形,琴柱(ことじ)形,草屋形など形状で分類したものがあるが,いずれも観賞的な好み上の分類であり一定しない。桂離宮,修学院離宮には,さまざまにデザインされた石灯籠が庭園の要所に配置してあり,江戸時代庭園用石灯籠の典型といわれる。
執筆者:伊東 太作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
照明具の一つ。灯楼とも書く。大別すると台灯籠と釣(つり)灯籠に分かれ、それぞれ、木製、石製、銅製、鉄製などの種類がある。台灯籠には立(たち)灯籠と置(おき)灯籠、釣灯籠には下げ灯籠と懸(かけ)灯籠がある。灯籠は神仏に灯明を献ずるためや、交通の照明としてのほか、庭園内では鑑賞のための庭灯籠が置かれた。
現存する石灯籠として古いものでは、奈良・當麻(たいま)寺金堂前にある奈良時代の凝灰岩のものや、奈良・春日(かすが)大社の平安時代の花崗(かこう)岩のものが有名である。石灯籠の台座だけは奈良・飛鳥(あすか)寺で飛鳥時代創建時の大理石の台座が出土している。銅製のものでは奈良・東大寺大仏殿前の奈良時代の銅灯籠、奈良・興福寺南円堂前の平安時代の銅灯籠が著名である。また、古い釣灯籠には、奈良・東大寺の鎌倉時代の鉄灯籠や広島・厳島(いつくしま)神社の南北朝の銅灯籠がある。
台灯籠は宝珠、笠(かさ)、火袋(ひぶくろ)、中台(ちゅうだい)、竿(さお)、台座からなる。置灯籠では竿以下が省略されるものもある。立灯籠では宝珠下に受花(うけばな)をつくるもの、笠の隅が蕨手(わらびて)となるもの、火袋が四角形や八角形のもの、中台下に受花、台座上に反花(かえりばな)を刻むものをはじめ、竿も角形・円形があり、覆輪(ふくりん)や紐(ひも)を巡らす節(ふし)をつけるものなど、多様である。その代表的なものの所在する場所名を付して、般若寺(はんにゃじ)形、元興寺(がんごうじ)形、三月堂形、太秦(うずまさ)形、柚(ゆ)の木(き)形、西の屋形、奥の院形、蓮華寺(れんげじ)形、善導寺形などがある。庭灯籠にはそれを愛用した人名をとり、珠光(じゅこう)形、利休(りきゅう)形、遠州(えんしゅう)形、織部(おりべ)形などがあり、形態によって蛍(ほたる)灯籠、雪見(ゆきみ)灯籠などの種類がある。釣灯籠は宝珠、吊輪(つりわ)、笠、火袋、受台、脚からなり、火袋には透(すかし)彫りが施され華麗なものが多い。
交通の便を図ってつくられた灯籠としては、香川・金刀比羅宮(ことひらぐう)北神苑の高灯籠、滋賀・大津琵琶(おおつびわ)湖畔の常夜灯が巨大なものとして知られている。
[工藤圭章]
『中村昌生・西澤文隆監修『日本庭園集成 燈籠』(1985・小学館)』▽『川勝政太郎著『日本石造美術辞典』(1978・東京堂出版)』
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