知恵蔵 「「ユダの福音書」」の解説 「ユダの福音書」 2006年4月、米国の科学教育団体ナショナル・ジオグラフィック協会(本部ワシントン)は、1970年代にエジプト中部の砂漠地帯で発見されたパピルス紙の束が、専門家による修復・鑑定の結果、初期キリスト教の文書「ユダの福音書」の約1700年前の写本であることが確認された、と発表した。この福音書は、紀元180年頃の異端を批判する文献のなかにも登場しており、その存在は古くから知られていたが、実物の内容が確認されたのは、今回が初めてである。その写本によると、イエス・キリストの弟子の1人であるイスカリオテのユダは、イエスの命令に従い、イエスを処刑されるように引き渡したとされている。これまで『新約聖書』では、ユダはイエスを引き渡した「裏切り者」として描かれてきた。従って、この福音書の内容は、キリスト教が正統としてきた教えとは正反対のものとなる。そのため、福音書の内容や解釈について、キリスト教会内で大きな議論が沸き起こっている。いずれにせよ、この福音書は初期キリスト教を知る上で重要な資料になるだろう。 (岩井洋 関西国際大学教授 / 2007年) 出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報 Sponserd by