外界からの異物やウイルス、細菌などに対する防御のために、リンパ組織が体中に張り巡らされています。その中心的なはたらきをするものとして、リンパ節とそれらを結ぶリンパ管があります。このリンパ管の先天的な形成異常により生じる病気がリンパ管腫です。
なかがいくつもの部屋に分かれた、大きく拡張したリンパ管が
通常は発育とともになくなってしまう胎生期の頸静脈から生じたリンパ
多くの場合、
一方、頸部には血管や神経、筋肉によってできた
他部位のものでは他の嚢胞性疾患や脂肪腫などとの区別が必要ですが、CTやMRI、場合によっては穿刺などにより診断が行われます。
以前は摘出手術が主な治療法でした。しかし、リンパ管腫は頸部の構造物の隙間に入り込み広がっていることが多く、手術での完全摘出は困難なことも少なくありません。また、完全に摘出されないと残存再発が生じ、再手術はさらに困難になります。
そのため近年では、手術と薬剤を併用、あるいは薬剤のみでの治療が試みられるようになりました。使用される薬剤は、嚢胞のなかに注入することにより嚢胞壁に炎症を起こし、壁の
発症年齢や大きさ、症状の程度により、検査や治療を急ぐ必要があるかどうかが決まりますが、頸部のはれが気になる場合は専門医に相談するとよいでしょう。
谷垣内 由之
リンパ管とは、血管と同じような管腔構造をもち、体のむくみを起こさないように体液を循環させる役割や、外部から侵入する病原体から体を守る免疫機能を維持する役割を担って、体中に張りめぐらされている管です。このリンパ管組織が異常に増殖した状態をリンパ管腫といいます。顕微鏡でみると、リンパ管が正常よりも広く拡大しているのがわかります。
体のあらゆる場所に発生しますが、4分の3以上は頭や首のまわり(頭頸部)に発生するといわれています。ほとんどの症例は、生下時(生まれたとき)を含む2歳以下の乳児に発生します。
皮膚に発生する表在性リンパ管腫と、より体の深い部分に発生する深在性リンパ管腫に分類され、治療法が異なります。
胎児期の発育とともに、正常ならなくなってしまう組織が何らかの原因でリンパ管の形成異常として残ったものと考えられています。
正常であるはずの組織が、遺伝子異常などによって異常な増殖を起こす腫瘍(新生物)とは病態が異なると考えられていますが、一部の遺伝性疾患(ターナー症候群など)に発生しやすいことから、遺伝子の異常が発症に関与しているとの学説もあります。
表在性リンパ管腫は、皮膚にピンク色から暗赤色の
深在性リンパ管腫の場合は、なかに液体をためたような軟らかい
皮膚に発生した場合は、特徴的な外見だけで診断が可能であることが少なくありません。
深在性リンパ管腫の場合、病気の広がりを確認するために、超音波検査、CTやMRIなどの画像検査を行います。最終診断は顕微鏡での検査で行います。
表在性リンパ管腫の場合、あまり大きくならないようなら治療せずに様子をみることがあります。皮膚の変化が目立つ場合や大きくなる場合は、手術で切除することを検討します。
深在性リンパ管腫の場合は周囲との境界が明瞭でないため、手術だけだと十分に病変が取り切れず再発の原因になります。そこで病変の内部にわざと炎症を起こす薬剤(OK432)を注入して壁を破壊・
皮膚病変の場合は皮膚科で、深部病変の場合は小児外科で治療することが多いようです。
森井 健司
体液の一種であるリンパ液が流れる管、すなわちリンパ管が拡張して、皮膚の表面にカエルの卵のような透明な
リンパ管の発達段階における形成異常により、その末梢にリンパ液がたまった状態です。皮膚の表面付近に貯留病変があるものを
生まれつき存在する場合と、小児期に徐々に現れる場合とがあります。
浅在性リンパ管腫は、皮膚の表面にカエルの卵を思わせる数㎜の透明な小水疱様皮疹が寄り集まって発生します(図83)。内部に血液成分が混じって赤色調、あるいは黒褐色調を示すものが混在する場合もあります。
深在性リンパ管腫は、表面がなだらかに隆起した大きさが数㎝を超える大型の軟らかいしこりです(図84)。皮膚の表面には変化がなく、その下の皮下にしこりを触れますが、表面に浅在性リンパ管腫を合併することもあります。
見た目や触診により診断可能なものが大部分です。黒褐色調を示し他の疾患の疑いがある場合には、ダーモスコピー検査(特殊な拡大鏡を用いた検査)を行ったり、一部分を切除して病理学的に確定診断を行うことがあります。深在性リンパ管腫では、針を刺して内容液を確認することも可能です。また、大きな病変では治療前にCTやMRIなどの画像検査を行って、病変の広がりを確認します。
外科的に切除する方法と、病変の内部に薬剤を注入して壁を破壊・
皮膚科専門医を受診して、治療可能な施設を紹介してもらうことをすすめます。
田村 敦志
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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