リンパ管腫(読み)リンパカンシュ(その他表記)Lymphangioma

デジタル大辞泉 「リンパ管腫」の意味・読み・例文・類語

リンパかん‐しゅ〔‐クワン‐〕【リンパ管腫】

リンパ管拡張増殖してできた良性腫瘍多く先天性で、小児頸部胸部などに好発する。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

六訂版 家庭医学大全科 「リンパ管腫」の解説

リンパ管腫
リンパかんしゅ
Lymphangioma
(のどの病気)

どんな病気か

 外界からの異物やウイルス、細菌などに対する防御のために、リンパ組織が体中に張り巡らされています。その中心的なはたらきをするものとして、リンパ節とそれらを結ぶリンパ管があります。このリンパ管の先天的な形成異常により生じる病気がリンパ管腫です。

 なかがいくつもの部屋に分かれた、大きく拡張したリンパ管が腫瘤(しゅりゅう)(こぶ)を形成し、ほとんどは2歳以下の乳幼児頸部腫脹(けいぶしゅちょう)という形で発症します。

原因は何か

 通常は発育とともになくなってしまう胎生期の頸静脈から生じたリンパ(のう)がそのまま残り、嚢胞(のうほう)状の腫瘤を生じたものと考えられています。

症状の現れ方

 多くの場合、下顎(かがく)(くび)の外側、鎖骨(さこつ)上方の頸部などが、軟らかく、境界がはっきりせず、何となく全体にはれてくるのが普通です。嚢胞の壁は非常に薄く、なかに黄色く透明な液がたまっているため、はれた部分に触ると水を入れた軟らかい袋を押しているような感触があります。頸部の少し深い部位にあると、通常はほとんど症状が出ません。

 一方、頸部には血管や神経、筋肉によってできた隙間(すきま)があり、嚢胞はこの隙間に広がっていく性質があります。口のなかやのどのほうに広がり、大きくなると物がのみ込みにくくなり、気管を圧迫すると呼吸が苦しくなり、頭や腕からの血液がもどってくる大きな静脈を圧迫するようになると、顔や上肢にむくみが出ることがあります。

検査と診断

 顎下部(がっかぶ)にある場合はラヌラがま腫)の顎下型との区別が必要になります。この区別にはMRIが有用です。ラヌラは、舌下腺から発生する嚢胞で、嚢胞と舌下腺が連続している画像が得られることがあります。はっきりしない場合は穿刺(せんし)(針で刺すこと)が行われます。ラヌラでは、非常に粘性が高く細い針では吸えないような液体がたまっています。一方リンパ管腫の場合は、粘性の低い黄色で透明な液が吸引できます。

 他部位のものでは他の嚢胞性疾患や脂肪腫などとの区別が必要ですが、CTやMRI、場合によっては穿刺などにより診断が行われます。

治療の方法

 以前は摘出手術が主な治療法でした。しかし、リンパ管腫は頸部の構造物の隙間に入り込み広がっていることが多く、手術での完全摘出は困難なことも少なくありません。また、完全に摘出されないと残存再発が生じ、再手術はさらに困難になります。

 そのため近年では、手術と薬剤を併用、あるいは薬剤のみでの治療が試みられるようになりました。使用される薬剤は、嚢胞のなかに注入することにより嚢胞壁に炎症を起こし、壁の癒着(ゆちゃく)を生じさせ腫瘤を消失あるいは縮小させるものです。

病気に気づいたらどうする

 発症年齢や大きさ、症状の程度により、検査や治療を急ぐ必要があるかどうかが決まりますが、頸部のはれが気になる場合は専門医に相談するとよいでしょう。

谷垣内 由之


リンパ管腫
リンパかんしゅ
Lymphangioma
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 リンパ管とは、血管と同じような管腔構造をもち、体のむくみを起こさないように体液を循環させる役割や、外部から侵入する病原体から体を守る免疫機能を維持する役割を担って、体中に張りめぐらされている管です。このリンパ管組織が異常に増殖した状態をリンパ管腫といいます。顕微鏡でみると、リンパ管が正常よりも広く拡大しているのがわかります。

 体のあらゆる場所に発生しますが、4分の3以上は頭や首のまわり(頭頸部)に発生するといわれています。ほとんどの症例は、生下時(生まれたとき)を含む2歳以下の乳児に発生します。

 皮膚に発生する表在性リンパ管腫と、より体の深い部分に発生する深在性リンパ管腫に分類され、治療法が異なります。

原因は何か

 胎児期の発育とともに、正常ならなくなってしまう組織が何らかの原因でリンパ管の形成異常として残ったものと考えられています。

 正常であるはずの組織が、遺伝子異常などによって異常な増殖を起こす腫瘍(新生物)とは病態が異なると考えられていますが、一部の遺伝性疾患(ターナー症候群など)に発生しやすいことから、遺伝子の異常が発症に関与しているとの学説もあります。

症状の現れ方

 表在性リンパ管腫は、皮膚にピンク色から暗赤色水泡(すいほう)が多く発生し、徐々に大きくなります。

 深在性リンパ管腫の場合は、なかに液体をためたような軟らかい(こぶ)として発症しますが、通常痛みはありません。胸やおなかのそばに発生した場合、胸部や腹部の臓器を圧迫することがあります。

検査と診断

 皮膚に発生した場合は、特徴的な外見だけで診断が可能であることが少なくありません。

 深在性リンパ管腫の場合、病気の広がりを確認するために、超音波検査、CTやMRIなどの画像検査を行います。最終診断は顕微鏡での検査で行います。

治療の方法

 表在性リンパ管腫の場合、あまり大きくならないようなら治療せずに様子をみることがあります。皮膚の変化が目立つ場合や大きくなる場合は、手術で切除することを検討します。

 深在性リンパ管腫の場合は周囲との境界が明瞭でないため、手術だけだと十分に病変が取り切れず再発の原因になります。そこで病変の内部にわざと炎症を起こす薬剤(OK­432)を注入して壁を破壊・癒着(ゆちゃく)させる硬化療法が選択されることがありますが、もちろん手術も行われています。

病気に気づいたらどうする

 皮膚病変の場合は皮膚科で、深部病変の場合は小児外科で治療することが多いようです。

関連項目

 血管腫

森井 健司


リンパ管腫
リンパかんしゅ
Lymphangioma
(皮膚の病気)

どんな病気か

 体液の一種であるリンパ液が流れる管、すなわちリンパ管が拡張して、皮膚の表面にカエルの卵のような透明な水疱様皮疹(すいほうようひしん)が多発したり、皮膚の下に軟らかいしこりができたりする病気です。

原因は何か

 リンパ管の発達段階における形成異常により、その末梢にリンパ液がたまった状態です。皮膚の表面付近に貯留病変があるものを浅在性(せんざいせい)リンパ管腫あるいは限局性リンパ管腫と呼び、深部に貯留があるものを深在性(しんざいせい)リンパ管腫と呼びます。

症状の現れ方

 生まれつき存在する場合と、小児期に徐々に現れる場合とがあります。

 浅在性リンパ管腫は、皮膚の表面にカエルの卵を思わせる数㎜の透明な小水疱様皮疹が寄り集まって発生します(図83)。内部に血液成分が混じって赤色調、あるいは黒褐色調を示すものが混在する場合もあります。

 深在性リンパ管腫は、表面がなだらかに隆起した大きさが数㎝を超える大型の軟らかいしこりです(図84)。皮膚の表面には変化がなく、その下の皮下にしこりを触れますが、表面に浅在性リンパ管腫を合併することもあります。

検査と診断

 見た目や触診により診断可能なものが大部分です。黒褐色調を示し他の疾患の疑いがある場合には、ダーモスコピー検査(特殊な拡大鏡を用いた検査)を行ったり、一部分を切除して病理学的に確定診断を行うことがあります。深在性リンパ管腫では、針を刺して内容液を確認することも可能です。また、大きな病変では治療前にCTやMRIなどの画像検査を行って、病変の広がりを確認します。

治療の方法

 外科的に切除する方法と、病変の内部に薬剤を注入して壁を破壊・癒着(ゆちゃく)させる硬化療法(こうかりょうほう)とがあります。

病気に気づいたらどうする

 皮膚科専門医を受診して、治療可能な施設を紹介してもらうことをすすめます。

田村 敦志


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リンパ管腫」の意味・わかりやすい解説

リンパ管腫
リンパかんしゅ
lymphangioma

リンパ腔やリンパ管腔を新しく形成する腫瘍をいう。良性のもので悪性化することはなく,10歳以下の小児に好発する。先天性の海綿状リンパ管腫と後天性の限局性リンパ管腫がある。前者は皮下に生じる嚢腫状腫瘍で,穿刺によりリンパを採取することができる。顔面,舌,陰部などに多い。後者は蛙卵状あるいは鮭卵状のダイズ大ぐらいまでの小水疱が多発し,ときに血疱化する。表皮直下に顕著なリンパ管の拡張が認められる。

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