改訂新版 世界大百科事典 の解説
ルティリウス・ナマティアヌス
Rutilius Namatianus
古代末期のラテン詩人。生没年不詳。フルネームはRutilius Claudius Namatianus。ガリアのおそらくトゥールーズ出身のローマ貴族で,文法,修辞学,ギリシア語をよく習得し,異教徒ではあったが,ホノリウス帝治下で書記官長(412)やローマ市長官(414)を歴任した。417年9月末にローマ市を離れ,ゲルマンに荒らされたガリアの自領を建て直すべく海路で帰郷。このときの模様を洗練されたエレゲイア詩形でつづった紀行詩2巻が残っているが,第1巻の冒頭は消失し,第2巻はわずか68行で終わっている。この詩で彼は,各寄港地に関連させてユダヤ教やキリスト教修道院,ゲルマン人将軍スティリコを非難し,異教徒ローマ貴族たる自己の心情を吐露している。その圧巻はローマ礼賛で,ローマ市の壮麗な建築物,上水道,気候,住民への称賛にとどまらず,西ゴートのローマ市略奪という事件(410)を経てもなお,ローマは法と自由をもたらすべく全世界を征服した最も美しき女王,災厄から復活していっそうの高みへと昇る永遠の存在として賛美されている。蛮禍の影をうかがわせないこの伝統的なローマ理念の発揚は,当時の異教徒貴族層の心情をしのばせて興味深い。
執筆者:後藤 篤子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報