大仏(おさらぎ)次郎の長編小説。1948年(昭和23),《毎日新聞》に連載。49年,苦楽社刊。不本意な事情から公金横領の罪に問われて海軍を辞職した守屋恭吾は,10年余も海外を流浪していたが,シンガポールで太平洋戦争開戦に逢着してからはマラッカの華僑の家に潜伏する。彼は,シンガポールで料亭を営む美貌の女将に密告され,憲兵の拷問を受けたすえにマラッカ刑務所に入れられる。敗戦後,久しぶりに帰国した恭吾は,人心まで荒廃した東京の様相を悲しむが,京都,奈良で昔ながらの美しい祖国を発見し,豪華な金閣寺では娘の伴子と再会する。作者は異邦人と化した恭吾を介して,虚脱した同胞を批判し,同時に同胞に自信と希望とを持たせようとしたのである。
執筆者:村上 光彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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