日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニッケル中毒」の意味・わかりやすい解説
ニッケル中毒
にっけるちゅうどく
金属ニッケルおよびその化合物による中毒で、ニッケルメッキ、ニッケル鉱山、ニッケル精錬などの産業現場でみられる。ニッケルのフューム(煙霧状粉末)やニッケルカルボニルの吸入による急性中毒は、頭痛、めまい、悪心(おしん)、胸痛などが初発症状で、新鮮な空気を吸入すると軽快するが、胸部圧迫感、咳(せき)、過呼吸、チアノーゼなどの遅発症状がみられる。ジチオカルブや副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤などを投与する。このほか、金属ニッケルの粉末や可溶性のニッケル塩が皮膚に付着すると、かゆみや灼熱(しゃくねつ)感を伴う紅疹(こうしん)、丘疹、小水疱(すいほう)などの発疹を生ずる。過敏症の人はニッケルメッキの金属に触れた程度でも感作(かんさ)性皮膚炎をおこす。また、金属ニッケルやその化合物の粉塵(ふんじん)、あるいはニッケルカルボニルを長期間吸入していると、肺癌(がん)の発生率が高まる。
労働衛生上の許容濃度は、ニッケルとその化合物の場合は1立方メートル当り1ミリグラム、ニッケルカルボニルの場合は1立方メートル当り0.007ミリグラムである。
[重田定義]