改訂新版 世界大百科事典 「ブラドワディーン」の意味・わかりやすい解説
ブラドワディーン
Thomas Bradwardine
生没年:1290ころ-1349
14世紀イギリス,オックスフォードのマートン学派(マートン・カレッジを中心とする運動論の学統)を代表する数学者,自然哲学者,神学者。エドワード3世の寵愛をうける。1349年カンタベリー大司教に任ぜられたが,約1ヵ月後にペストのため没した。チョーサーの《カンタベリー物語》にその名が言及されているように,神学者として当時令名高く,大著《神の原因について》(1344ころ執筆完成,以下同)がある。また科学史上の貢献は,《運動における速さの比について》(1328)によって不滅である。中世数学の比例論とくに比の合成の概念に依拠して,アリストテレスの運動規則をより整合的に定式化する試みをなし,現代的に記号化すれば,なる関係を提示した(〈ブラドワディーンの関数〉と称される。ただし,Fは力,Rは抵抗,Vは速さ)。さらに純粋数学の分野でも活躍し,《理論幾何学》《理論算術》(いずれも執筆年代不明),《連続論》(1328以後)の著述がある。《連続論》では,不可分者から連続体を構成することの不可能性がユークリッド幾何学に基づいて説かれている。
執筆者:高橋 憲一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報