日本大百科全書(ニッポニカ) 「三枚のお札」の意味・わかりやすい解説
三枚のお札
さんまいのおふだ
昔話。人を食う怪物を退治することを主題にした逃走譚(たん)の一つ。小僧が鬼婆(おにばば)に追われる。小僧は持っていた3枚のお札を1枚ずつ投げる。最初は山ができるが、鬼婆は越えてくる。次は川ができるが、やはり渡ってくる。3枚目は火になり、鬼婆は焼け死に、小僧は助かる。世界的な昔話の一つで、アジア、ヨーロッパ、北アメリカのインディアンなどに広く分布し、アフリカにもある。投げた物が障害物に化すというところに特色があり、「呪術(じゅじゅつ)逃走」とよばれる。『古事記』『日本書紀』の神話にみえる、死の世界の伊弉冉尊(いざなみのみこと)が、訪ねてきた夫の伊弉諾尊(いざなぎのみこと)を鬼に追わせる物語は、この昔話の典型的な例である。夫の投げた鬘(かずら)がヤマブドウに、櫛(くし)がタケノコになり、鬼がそれを食べている間に逃げたとある。近代の昔話は、これとは直接は結び付かない。仏教的色彩が濃く、寺僧によって語り広められたものであろう。朝鮮には、怪物に化けた妹に追われた兄たちが瓶(かめ)を投げて、山や川にして逃げる話が分布している。このほうがかえって日本の神話に近い。
[小島瓔]