朝日日本歴史人物事典 「中村善右衛門」の解説
中村善右衛門
生年:文化7(1810)
幕末維新期の養蚕改良家。岩代国(福島県)伊達郡梁川村の蚕種製造家の家に生まれる。当時,伊達郡,信夫郡を中心とする奥州の養蚕地帯では,火力を用い気温を上げて蚕を飼育する方法が普及しつつあったが,善右衛門は飼育時の適正温度を調べ,正確な温度調節を行いながら飼育できるように,医者の体温計にヒントを得て,苦心の末,養蚕用の温度計を製作した。「蚕が当たる計器」すなわち「蚕当計」と名付け,これを利用した標準飼育法を完成させ,その骨子を『蚕当計秘訣』(1849)なる冊子にまとめて出版した。当初はこの技術を排斥する者もあったというが,まもなく優れた方法と認められ,以後,養蚕に温度計を使用することが普及していった。「蚕当計」製造への着手から『蚕当計秘訣』の出版までに10年もかかっており,善右衛門の養蚕改良への執念のほどが窺われる。<参考文献>松村敏「『蚕当計秘訣』解題」(『日本農書全集』35巻),庄司吉之助『近世養蚕業発達史』
(松村敏)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報