体温を測定するための温度計。水銀温度計(水銀体温計)、サーミスター温度計(電子体温計)、熱電対温度計などの種類があり、目的に応じて使い分けられる。一般によく用いられる水銀体温計は水銀を細いガラス管の中に排気密閉し、温度に伴う水銀の体積膨張を利用したものである。形態としては平(ひら)型と棒状があり、平型は薄いガラス管の中に水銀柱のガラス管が入るという二重管構造で、目盛りは拡大されて見やすくなっている。また棒状のものは厚い一重ガラスの中に水銀が入っている。水銀体温計の水銀槽とガラス管の境目が細くなっているところを留点(りゅうてん)といい、水銀が膨張してガラス管に入り、一定温度を示したあと、身体から離しても水銀柱が下降しないのは、この留点の作用による。水銀柱を下降させるには、水銀槽を人差し指で保護して強く振り下げるか、体温計をケースに入れ、紐(ひも)を回転させて、その遠心力で下げるとよい。電子体温計は数十秒ほどの短時間で安定した値が得られるので、乳児など動いて測定困難な対象には便利である。熱電対温度計は実験用で、臨床にはほとんど使用されない。
体温とは身体内部の温度のことであるが、実際には腋窩(えきか)(腋窩温)、顎下(がくか)(顎下温)、口腔(こうくう)(口腔温)、直腸(体腔温)で測定している。体腔温のほうが体内温に近い値が得られるが、日本では新生児や乳児以外は腋窩で測定するのが一般的である。腋窩温は、平型体温計を腋窩腔の最奥、腋窩前後径の中央よりやや前寄りに水銀槽の部分を当てて10分間以上測定する。この際には腋窩腔をしっかりと閉じたままにしておくが、腋窩の汗は、あらかじめ、摩擦熱をおこさないように静かにふき取ることが必要である。欧米諸国のように口腔で測定する場合は、棒状体温計(水銀槽の細長いもの)を舌下中央部に当て、舌でこれを十分に覆って5分間以上測定する。なお、測定直前(理想的には30分前)には、熱いものや冷たいものを飲食してはならない。婦人体温計とよばれるものは、早朝起床前の一定時刻に仰臥(ぎょうが)のまま口腔内で検温するのに用いられるが、その継続測定記録は妊娠診断、不妊症の治療、受胎調節への応用などに利用される。直腸で測定する場合は、組織の損傷防止を考えてつくられた棒状体温計(水銀槽が球形のもの)を用いて3分間以上測定する。
体温計に表示されている1分計、3分計、5分計というのは温度を感知するに必要な時間であって、けっして測定時間ではない(測定時間は、さらに数分間が必要となる)。使用後は水銀を35℃以下に下げて水洗後、必要に応じて消毒し、高温や日光の当たる所を避けて保管するとよい。日本の体温計はすべて摂氏(せっし)で目盛られており、市販品はどれも計量法による検定合格品である。なお、古くなったものは、各都道府県の計量検定所で検査してもらうことができる。
[山根信子]
体温測定(検温ともいう)に用いられる温度計。体温測定は体調を知るために日常よく用いられる簡単な方法の一つである。水銀体温計と電子体温計とがあるが,水銀体温計には測定部位によって,口腔用,肛門(直腸)用の棒状体温計と腋窩用の平型体温計がある。一般には直腸温,口腔温,腋窩温の測定をもって体温と称し,直腸温>口腔温>腋窩温の順になる。一日のうち測定する時間によって体温は変化し,また個人差があるので,平常の状態で一定期間測定し,平常の体温(平熱)を知り,その比較で身体の状態を知ることがたいせつである。腋窩検温は,体温計を腋窩の深部で真ん中よりやや前方に差し入れて,上腕を側胸部に密着させてつくられた腔内の温度を測定する。そのため,温度が一定になるための時間が必要であるとともに,発汗のある場合には汗をよくふきとってから測定する。口腔検温は,口腔内で最も温度の高い部位である舌下で測定する(5~10分間)ため,うがいや食事の後30分を経ていることが望ましい。また,危険が伴うので,乳幼児や老人,意識のない人には不適当である。直腸検温は,肛門,直腸を傷つけたり,体温計の汚染などから,新生児以外はあまり用いられない。測定する時は必ず傍らにいて体温計を一定の深さ(約6cm)に保つ必要がある。
いずれの検温の場合も,運動,入浴,食物摂取の後,30分間は避け,体温計使用後は清潔にして(アルコール綿などでふく),目盛を下げてから破損しない場所に保管する。
執筆者:外口 玉子
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