化学辞典 第2版 「主原子価」の解説
主原子価
シュゲンシカ
principal valence, main valence
A. Werner(ウェルナー)が,金属錯体の化学構造を説明するために用いた原子価の概念で,側原子価(副原子価)に対するもの.かれの原著論文(1893年)ではHauptvalenz.各原子が通常の化合物をつくるときに示す原子価が主原子価である.CoCl3においては,Coは3価,Clは-1価の主原子価で結合する.これに対し,H2O,NH3などの分子がさらに結合して,高次化合物をつくるときにはたらく原子価が側原子価であるとされた.
「側原子価・」によって金属原子Mに結合されるNH3やX(ハロゲン化物イオン)はWernerの化学式では[ ]の中に,主原子価によって結合されるXは[ ]の外に配置された.この表記法は現在も使われている.[ ]中のかれのいう“第一結合空間”の立体的配置も六配位の場合,八面体型構造とされた(ノーベル賞受賞講演1913年).主原子価,側原子価の概念は,量子論的化学結合論の出現以前の過渡的なモデルであって,今日では本質的な意味はないが,かれ自身も両原子価の間に根本的な差違はないことに気づいていた.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報