改訂新版 世界大百科事典 「人造麝香」の意味・わかりやすい解説
人造麝香 (じんぞうじゃこう)
artificial musk
麝香類似の香りをもつ合成された化合物。代表的動物性香料の麝香はその優れた香りのゆえに古来珍重されているが,採取量が少なく,きわめて高価である。その主成分であるムスコン,麝香に似た香りをもつ霊猫香(れいびようこう)の主成分シベトンは実験室では合成されてはいるが,工業的につくられるまでには至っていない。そのため麝香に似た香りをもつ化学物質の探索,合成が行われている。人造麝香は二つのタイプに大別される。一つは天然麝香(l-ムスコン)が大環状ケトンであることに着目して,その類似構造をもつ化合物として合成したもので,シクロペンタデカノン,シクロペンタデカノリド,アンブレットリド,エチレンブラシラート,11-または12-オキサヘキサデカノリドなど,比較的合成しやすい化合物がある。一方,芳香族ニトロ化合物の一群の物質はムスク様の香りをもつことが見いだされており,香りの質は前者に劣るが製造が容易なことから安価な麝香様香料として用いられている。これらはニトロムスクとも呼ばれる。たとえばムスクキシレン,ムスクケトン,ムスクアンブレット,ムスクチベテン,モスケン(ムスクサイメン)などがそれである。そのほか芳香環-脂環の縮合骨格をもつ化合物群も人造麝香として知られている。広く香粧品香料として,またセッケン,化粧品に使用されている。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報